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天の卵~神さまのくれた赤ん坊~【後編】Ⅲ

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 この女の醜い本性も、思慮に欠ける浅はかさも。
 今日という日は、あまりにも色々とありすぎた。
 蒼褪め震えている妻を後に残し、直輝は疲れた身体と心を抱えて一人で寝室に向かった。

♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

 再会をきっかけに、有喜菜と直輝は頻繁に逢うようになった。むろん、二人の仲が深まってゆくことを、紗英子が知るはずはない。
 だが、二人が当然、行く着くべきところに行くのには時間を要した。というより、有喜菜の方がわざと直輝を焦らしたのである。
 男なんて、所詮、女を手に入れてしまえばそれでおしまい。直輝は誠実な男だけれども、そういう男特有の所有本能があっても不思議ではない。だから、できるだけ、そのときは引き延ばしておいた方が良い。
 有喜菜は恥じらいを装いながら、冷静に男の様子を観察し続けた。どうせ手に入れることのできる果実でも、完全に熟すまで待てば、手にしたときの歓びも味わいもより甘美だろう。
 逆に、あまりに熟すのを待ちすぎて時機を逸してしまえば、それはそれで得たときの価値を失わせてしまう。有喜菜は慎重に間合いを計り、直輝を時に妖艶な微笑で、時に無邪気な少女のように、必要とあれば涙すら浮かべて魅了した。
 男が彼女の罠にかかるのは容易かった。
 有喜菜が直輝に初めてホテルに連れられていったのは、七月もそろそろ終わろうとしているある日の午後であった。
 N駅付近には、ファッション・ホテルが数軒、寄り集まるように林立している。二人が入ったのは、その中の一つだった。
 もちろん、有喜菜もこれが初めてではない。直輝とも既に濃厚なキスは何度か交わしている。だが、男に触れられるのは実に離婚して以来のことである。保険会社の上司や同僚に言い寄られることは度々あったし、取引先で知り合った男性から誘われることもあったが、有喜菜のガードは固かった。
 もう、男には懲りていたからだ。また、好きでもない男とただ憂さ晴らしのために寝るような趣味もなかった。
 だから、直輝とホテルの一室に脚を踏み入れた途端、思わず身を震わせてしまったのは演技ではなかった。
 良い歳をした女が、しかも同意の上で来ていながら、みっともない。自分ではそう思ったのだけれど、直輝は全く別の意味に捉えたようである。
「震えてるじゃないか」
 笑いを含んだような声色で言い、有喜菜の肩をそっと抱き寄せた。かと思うと、いきなり膝裏を掬われ、抱き上げられた。
「直輝?」
 狼狽えて呼べば、直輝は愛おしさのこもったまなざしで有喜菜を見つめた。
「心配するなよ、ちゃんと優しくするから」
 これでは、まるで初体験の少女のようだと思ったけれども、大切に扱われて悪い気はしなかった。
 直輝は有喜菜を部屋の中央にある大きな寝台にそっと降ろす。部屋は深いブルーの色調で纏められており、下卑た雰囲気はなく、むしろオシャレでカジュアルなイメージだ。もっとも、最近は利用するカップルも多いから、いかにも連れ込み宿的なホテルは敬遠され、流行らないのだろう。競争が激しいのは、どの業界でも同じ理屈だ。
 その日は土曜日で、二人は昼前に待ち合わせて和風割烹で軽く軽食を取ってから、ここに来たのだった。
 シャンデリア型のランプが淡い影を落とす室内は水底(みなそこ)のようにひっそりと静まり、空調の音だけがひそやかに響いていた。
 今日の直輝はモスグリーンのポロシャツに落ち着いたブルーのズボンである。さりげない装いだが、長身でモデル・俳優並のルックスを持つ彼が着れば、それだけでオシャレに見える。
 有喜菜はサマーニットのワンピースだ。色は淡いイエローで、かなり膨らんできた腹部を隠すのにも丁度良い。胎児は今、妊娠六ヶ月、既に性別も判る時期にきている。性別は訊いていないけれど、エコーで見る赤ん坊はよく動き、どこから見ても健康で申し分のない発育ぶりに見えた。
 もう服を着ていても、妊婦だと一目瞭然に判るほどになった。
 直輝は有喜菜をベッドに座らせると、背後に回った。ワンピースの背中に小さなボタンが並んでいるので、それをゆっくりと外していく。暑い時期なので、ワンピースの下にはブラジャーだけしかつけていない。
 今日は多分、こうなることは予め予測していたから、下着もそれなりに気を遣っている。淡いピンクの清楚なレースのブラとお揃いのパンティだ。とはいえ、パンティの方は本当の意味のお揃いではない。ここまでお腹が大きくなってしまったら、もう普通の小さなショーツははけない。
 仕方がないので、ブラと似たようなマタニティ用のショーツを買った。妊娠が進むにつれて胸はどんどん大きくなり、Cカップだったバストは今やEカップにまで成長? している。
 すべてのボタンを外し終わり、ワンピ―スが直輝の手によって引き下ろされる。ブラとショーツだけしか身につけていない姿というよりは、大きくなったお腹が流石に恥ずかしく、頬が熱くなった。
 有喜菜の羞恥には構わず、直輝はゆっくりと少しずつ手を動かしていく。ホックが外されると、肩紐をすべらせるようにして、はらりとブラが落ちた。
「こっちも脱ごうか」
 今度は前に回った直輝が優しい声音で誘うように言う。その手は優しげな口調とは裏腹に、ショーツにかかっていた。
 有喜菜は覚悟を決めて頷く。
 それでも不安げな表情は隠せなかったのか、直輝はいっそう優しい声で囁いた。
「大丈夫だから、俺に有喜菜のすべてを見せて欲しい」
 直輝はそう言いながら、有喜菜のパンティをすんなりとした脚に添わせるように降ろしていった。
 とうとう、有喜菜は直輝にすべてを晒すことになった。恥ずかしさのあまり、うつむけた顔を上げることもできなかったが、彼の熱を帯びた視線に射貫かれ、有喜菜の膚までが灼けるように熱くなる。
 思わず両手を交差させて胸を隠そうとするのに、直輝が言った。
「こんなに綺麗なんだから、ちゃんと見せて」
「だって、不格好でしょう。胸もお腹も妊娠したせいで、不自然なくらい大きくなっちゃって」
「そんなことはないさ。有喜菜の生まれたままの姿って、とても綺麗だよ」
「直輝ったら」
 有喜菜が小さく声を立てて笑うと、直輝はそれに勇気を得たように、有喜菜の手をそっと胸から持ち上げて外した。
「ほら」
 促されて見ると、大きくなった乳房の先端がつんと尖って上を向いている。
「有喜菜もちゃんと興奮しているんだから」
「変なこと言わないで、余計に恥ずかしくなるじゃない」
「別に恥ずかしがる必要はないだろ。男が感じれば興奮するように、女だって興奮するのは当たり前だよ」
 直輝が乳房を下から両手で掬うように持ち上げる。大きな手のひらが零れんばかりの乳房を包み込み、ゆっくりと揉んだ。
 彼の手は悪戯で、乳房の形が変わるほど揉んだり、先端を指で弾いたりする。かと思えば、乳暈の縁を円を描くように撫で、乳暈ごと先端をキュッと押したりした。
 その度に、有喜菜の身体はピクリと反応し、直輝はそんな彼女を眼を細めて眺めている。
「有喜菜は感じやすい身体をしてるのかな」
 愉しむように言うと、ベッドの枕許のナイトテーブルを見つめた。
「ちょっと待って」
「え、なに?」