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法定寿命~双つの世界~【前編】

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「経済大国になれたのはひとえにラッキーだったからだと思います。もし一流だったとすればすぐに立ち直っているはずです。現在の状況は一流ではなかった、という証明です。」

「…」

「国の経済が発展するには三ないし四つの条件があると思います。一つは政情が安定していること。二つめは対外的に人件費が安いこと、三つめはそれなりの労働人口があること。更に加えるならば同じ状況にある国、つまりライバルが少ないことでしょう。この国は幸運なことにこれら条件を併せ持っていた、結果経済大国になれた、と考えています。決して経済が一流、優秀だった訳では無いのです。」

「…」

「今すべきことは、国民にありえない希望を語るのではなく、現状を正しく説明し、受け入れてもらうことです。そのためには私はどんな努力も惜しみません。どんなに個人攻撃されようともひるみません。それが唯一残された解決策だと信じているからです。」

 最後は明らかに言い過ぎていた。でもその時は悦に入り、冷静さを失っていた。記者からインタビュー内容をそのまま載(の)せて良いかと念を押されたが、「もちろん。」と答えた。

(私は子供ではなく、大人なのだ。だから難しい問題に直面しても上手く乗り切れたんだ。)

 しかし大人たる条件には自らの発言に対し責任を持たなくてはならない、という要素を付け加えなくてはならないことに気が付くまでには大して時間は掛からなかった。そして…
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 そして気が付けば私は政治討論番組に引っ張り出されていた。一介のミュージシャンだったはずの私は予想外にも世間の激しいバッシングに晒(さら)され、しかし言ってしまった手前、隠れることも許されず、隠れさせてくれるバック(=組織)も無く、さらし者状態だった。

「私は今八十だけどね、あんた私に死ねって言ってるの?」

「大丈夫です。安心してください。痛くしませんから…」

「なんだとっ!年寄りをからかうのもいい加減にしなさい!」

「まぁまぁ抑えて…」

 司会の制止が入る。そして続ける。

「しかしねぇ、定年制ってことは国家の貢献度によらず全ての人が一定の年齢で殺されるってことでしょ?それで果たしていいのかね?」

「貢献度を考慮するようになると複雑化します。全員同じ条件であることが平等で良いのです。」

「そう、ではどうして一方的に高齢者が責任を負わなければならないんだろう?」

「そもそも少子高齢化は何十年も前から予想されたことです。なのにそれに対する適切な解を提示できなかった。その責任が今の高齢者にあると思っているからです。責任は現役世代に押し付けるべきじゃありません。」

 私は少々ムキになっていた。

「じゃ、ここで一歩踏み込もう。全ての国民ってことは天皇も含まれるの?」

「勿論(もちろん)です。天皇は神様じゃない、少なくとも戦後は。だから例外ではありません。そもそも私は天皇制反対です。考えてみてください、皇族に生まれただけで職業選択の自由も、居住地選択の自由も事実上一切認められない。天皇だ、天皇だと崇(あが)めながら、その実は個人から自由を奪い取っているわけです。酷(ひど)い人権侵害です。こんなことが放置されていていいのでしょうか?」

 一応スタジオには右翼は来ていないようで激しい罵声(ばせい)は浴びなかったが、代わりに冷たい視線を一身に浴びてしまう。

「…私は宗教学の専門だが、宗教的観点に立っても無実の人を殺すことは容認できない。神は決してそんな横暴を許さない。」

「政治に宗教を持ち出すこと自体、どうかと思いますが、しかし一歩譲って宗教上の観点から考えてみましょう。人類は医療を進歩させることで、本来死ぬ運命にあった人まで助けるようになりました。これは神への背信(はいしん)行為ではありませんか?そしてその医療の進歩は超高齢化社会をもたらしました。これは神からの天罰では?」

「医療の進歩は神が与えてくださった新たな人類への使命。人類はその使命を果たせば良いのです。決して医療の進歩は神の意思に反した行為ではありません。」

「それはあまりにも都合の良過ぎる考えじゃないですか。神はそんなに人間に都合の良い存在であって良いのですか?…まぁ、神というのは結局人間が作り出した想像上の存在でしかないんです。遠い昔は『神のお告げじゃ』と言えばそれで通用した、神とは単なる政治の道具なんです、為政者(いせいしゃ)のためのね。」

「なんだとっ、君は神を否定するのか!」

 議論は平行線だ。いや、これは議論なのだろうか?一方的に私を吊し上げるショーではないのか?議論は、いや、議論らしきものは次のテーマに移る。

「さぁ、ここからはこの国の活力を取り戻すためにどうすればいいか?このテーマで議論していこう。さて誰からいこうか…じゃ、君から。」

(えっ、俺から…)

「…今、社会は経済の停滞のツケをすべて若者になすりつけようとしています。どうゆう訳か業績が悪化しても社員のクビを切らない経営者が良い経営者のように世間では思われています。しかし、それは大きな間違いです。クビを切らないということは若者の雇用機会が失われることを意味します。高止まりした中堅以上の社員の給与体系も若者の就労を阻害(そがい)する要因です。今の若者にはチャンスすら与えられません。これはおかしい。だから私は現在の優遇された正規社員の制度を見直して雇用調整をし易(やす)くすべきだと思います。」

 私は自らの心とはうらはらに、威勢(いせい)の良いもう一人の自分が勝手に一人歩きをし始めたのを感じていた。

「第一、社会人を十年も二十年もしていたら、転職だろうが独立だろうが出来て当然のスキルや経験を持ってしかるべきです。逆に出来ないのであれば、それまで何をしていたのかって話です。明らかに今の正規社員は守られ過ぎです。そして結果、一定の年齢以上では転職は難しく、なぜならもう彼らの席は埋っているから、だから人材の流動性が滞(とどこお)る。そして労働市場全体が収縮する。結果は見えています。」

(えぇぃ、もうガンガン言っちゃえ!)

「正規社員の問題だけではありません。国を、経済を強くするには取りも直さず政治です、政治がリーダーシップを取らなければいけません。しかし私は現在の政治システムに対して大きな疑問があります。それは政党政治です。政党政治って何なのでしょう?」

「えっ、何って?」

「民主主義と政党制って相反(あいはん)するんじゃないかってこと。」

「相反(あいはん)する?」

「そう、政党って議論を通じて結論を出すなんて言ってるけど、結局一部の幹部による決定が絶対になって、本心では反対でも選挙で党の公認がもらえなくなるとマズいから賛成してしまう。これのどこが民主主義なんだ?と。だから党なんて潰(つぶ)してしまえばいいんです。」

「それはまた乱暴な…」