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法定寿命~双つの世界~【前編】

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「えっ、三時間、ずっとですか?」

 そう、私の贅沢(ぜいたく)とは高級ソープで「何もしない」のである。カツ丼頼んでカツを残すようなものかな、例えて言うなら。

「お年を召した方でお話だけされて帰られるケースは稀(まれ)にあるけど、お客さんの年齢で、ですか?」

 怪訝(けげん)そうな顔をする女ではあったが、そこはあらゆる客と対峙(たいじ)してきた百戦(ひゃくせん)錬磨(れんま)のつわもの。事情も聞かず、私に寄り添い、指示に従う。

「…お客さん、もしかして立派な方なの?」

「いや、アソコ以外は至ってフツーの男です。」

「ふふっ…」

 私は音楽をやっているせいだろうか、声の質に非常に敏感だ、特に女性の声に。そしてこの女の声はとても艶(つや)やかで私の性欲を湧き立てる。しかし私の、私なりの贅沢(ぜいたく)はそれを許さない。

 その後の時間はまさに生殺し状態だった。もし手を繋いだだけでも私の贅沢(ぜいたく)計画が終焉(しゅうえん)の鐘をつきそうで、ただただ身を固くするのみであった…

《真の贅沢(ぜいたく)とはその場で満たせる欲求に打ち勝つことである。》

 私はそう勝手に悟り、その足で身近な大衆店へと向かうのであった。
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 何しろ気持ちの良いものだ。私は終生ミュージシャンとして生きていこうとは思っていなかったので、後に自分の満足のいく曲作りはできなくなってしまっても、それはそれで構わなかった。その分、気負うものがない。売れっ子ミュージシャンの中には周囲の期待からくる重圧でアルコールやドラッグに嵌(はま)る者もいるようだが、私にはそんなことは無縁だ。週刊誌が限界説など書き立てようが一向に気にかけない。私にとってミュージシャンを志した時の「問題提起」が叶えばひとつのミッションの終わりである。時間を掛け、次に目指すものを見つければいい。当面お金の心配もない。実に気持ちの良いものである。