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わて犯人

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第十話 フジモトム


「さぁ、ここが俺たちのアジトだ。」
「あれっ? ここって、亡くなった夫婦の邸宅じゃないんですか?」
「あぁ。だが、今は俺たちのアジトだ。ちゃんとダイソンさんの許可もとってある。」
「そうなんですか」
「一応、北極に正式なアジトがあるんだが、今はそこには行けない。おそらく、すでにフジモトムの指示を受けたホッキョクグマたちに包囲されているだろうからな。そういうわけで、今はここを臨時のアジトにしている。あいつらも、このことには気付いてないだろう」
「さすが、ジョンさん。頭の回転が速いですね」
「探偵としては当然のことだ」
そう言ったものの、サングラスの奥のジョンの目は少しニヤけていた。

そんなことを話しながら、二人は邸宅の中に入って行った。

リビングに入ると、そこではマインがテレビを見ていた。
「おぉ、二人とも無事だったか。」
「あぁ、特に問題ない」
「聞くところによると、ジョンが派手にやったようだな。」
マインは笑いながら二人に目を遣った。
「そうなんですよ。まぁ、面白かったですけどね。そんなことより、フジモトムって一体どんな人物なんですか? 今までは親友だと思っていたのに・・・」
「そういえば、お前にはあいつのことを話してなかったな。フジモトムは、過激な環境保護論者で、環境保護のためには手段を選ばないような奴だ。そのこともあって、動物界からは好かれている。だが、それはあくまで表向きで、奴の裏の顔は、ラーメン博士。日々ラーメンに関する実験をしている。そして、その実験は環境破壊にもつながっている。奴はそのことを知りながら実験をしているんだ。」
「まったく、クソみたいな奴だぜ」
「そうだな。動物界のやつらはフジモトムの裏の顔を知らないために、あいつに好意を抱いてるんだ」
「そうなんですか。私にはただの会社員だと言っていたのに・・・。あんな奴に騙された自分に腹が立ちます」
「終わったことだから仕方がない。そんなことより、・・・・」

マインが何か言いかけた時、ダイソンさんが血相を変えてリビングに走って来た。
「た、助けて!殺される!!」
ダイソンは全身傷だらけだった。

「ダイソンさんどうしたんですか!?敵襲ですか!?」
「ち、違いますよ!犬です犬!」
「犬?またおかしなことをおっしゃいますね。」
ダイソンの思いがけない言葉にトムは首をかしげた。
「この邸宅で山田夫妻が飼っていた犬ですよ!何故かわからないけど執拗に私に襲いかかってくるんです…うわっ!また来た!!」
トム達が部屋の入り口に目をやるとそこには確かに犬がいた。
精悍な顔立ちに気品のある毛並、そしてつぶらな瞳。いかにもお金持ちが飼っていそうな立派な犬だった。
「なんだ、本当に犬じゃないか。ダイソンさん、あんたヘタレですね。」
マインは横目でニヤリとダイソンを見てから犬に近づいて行った。
「おーよしよし。可愛いなお前。えーと、ダイソンさん!名前は何て言うんですか?」
「東MAXですよ。それにしてもおかしいですね。なんでマインさんには噛みつかないんだ…?」

「それはお前が犯人の仲間だからだよ。」

一瞬、誰もが耳を疑った。言葉の内容もさることながら、
その言葉を発したのがなんと犬の東MAXだったからだ。
「い、犬が喋った…」
ダイソンは腰を抜かしていた。
「HAHAHA…驚きましたかダイソンさん?実はね。ジョンが北極で動物の言葉を翻訳する機械を見つけましてね…。」
「あ!熊子さん達もそれで話してたのか!」
「そういうことだ。山田夫妻は犬を飼っていたというから、彼が重要な証人になるかも知れないかと思ってジョンにサンプルを持って帰ってきてもらったんだよ。そしたらドンピシャさ。ダイソンさん。この犬はあんたが犯人の一味だって証言してるぜ。」
「そ、そんな!たかが犬の言うことを信用するんですか?私は何もしていません!」
ダイソンが声を荒げた。
「ダイソンさん…アンタが犯人の一味だって示す証拠は何も犬だけじゃないぜ。」
「な、なんですって…」
「アンタこう言ったよな?『帰ってきたら夫妻が鍵のかかった部屋で死んでいた』と…そして『2つしかない部屋の鍵の一つが夫妻の傍らに落ちていた。』と。」
「ええ、私はこの目でちゃんと見ましたよ!」
「それからアンタはこうも言った。『もうひとつの鍵は5年前に盗まれた』ってな。」
「あ!そうか!わかったぞ!」
トムが突然声を上げた。
「お前にもわかったようだなトム。さて、ここで一つ矛盾が生じる。
アンタ、鍵を盗まれていたのにどうやって夫妻が倒れていた部屋に入ったんだ?」
「・・・・ッ!」
ダイソンの額から大粒の汗が零れ落ちた。
「アンタがスーパーで買い物をしていたことは真実だろう、だが、帰ってきた時に夫妻が死んでいるのを見たってのは本当なのか?」

「・・・・・」
「なんとか言ってくれよ。」
「・・・・ふ」
「あん?」
「ふふ…うふふふふふふ…ぶふふっ!
…あーはっはっはっはっは!ひーっ!ひーひゃははははははははははははははっ!!!」
「ダ、ダイソンさん?」
「…ついに本性を現したようだな。」
トムは、マインがゴクリと唾を飲んだのを見逃さなかった。
作品名:わて犯人 作家名:熊田熊子