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隻眼の鳥

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スバル  ユーキにもそんな人がいたのか! へー、誰、どんな人?
ユーキ  前から言おうと思ってたんだけど……スバルはとても自然に失礼な奴だな。
スバル  そう? 身に覚えがないな。
ユーキ  それを本気で言っているところも含めてだ。
スバル  で、どんな人なの。
ユーキ  私と正反対。一人では何もできないことを知っているから周りの人間を尊び、柔らかく、優しい初夏
     の風のような人だ。
スバル  なるほど。ユーキは何でも一人で抱え込もうとするしちょっと自分を過信しすぎだし硬いし厳しいし
     秋から冬に向かうような人だからなぁ。
ユーキ  スバル。分かってて言ってるだろう。
スバル  さあね。さ、エルザが呼んでるよ。
ユーキ  わかった。覚えとけよ。
スバル  捨て台詞が往年の下っ端悪役だよ……。つくづく残念な人だなぁ。待ってユーキ、俺も行く!

ユーキ、追ってスバル退場。

カイ   いよいよ明日だな。
リード  ……そうですね。
カイ   詰めるところは詰めた。唯々諾々と向こうの要件を飲むわけにはいかない。開国という大きな要件は
     飲む代わりに、こちらの筋道に従って動かせるようにしないとな。
リード  はい。では、明日。
カイ   リードは義父上とともに来てくれ。無論ガードも兼ねている。牽制しているとはいえあちらがどうい
     う手段で来るかわからないからな。
リード  承知しています。
カイ   手順は分かっているな。まずは俺が一人で対談に応じる。それから、実際に話を詰める段階になった
     らと義父上と君と、3人で対応することになる。最終的に調印するのは義父上だ。
リード  私は父上とともに続きの間で待ち、呼びいれられるのを待てばよろしいのですね。
カイ   あちらは代表はエルザだが、枢機卿も噛んでいるらしい。
リード  今まで沈黙を守ってきたが、やはり娘が可愛いか。
カイ   エルザに説得されたんだろう。だが話しの運び方次第では、枢機卿もこちらに丸めこむことができる
     と思う。何せ最近までは開国に反対だったのだからな。
リード  そうですか。
カイ   明日、よろしく頼むな。
リード  義兄上。
カイ   どうした。
リード  ……いえ。では、明日。

カイ退場。
リード、何かを決意するように力を込め、退場。











月光

エルザ  明日だな。
ユン   ああ。明日だ。世界が変わる。
エルザ  今までありがとう、ユン。私のことを支えてくれて。
ユン   待って、そんなに感傷的になるなよ。まだ何も終わってないのに。
エルザ  ああ。でも今言っておかなければ、言う機会がなくなってしまうような気がして。
ユン   らしくなく弱気だね。
エルザ  そう言ってくれるな。今だけだ。こんな弱気。
ユン   あなたは時々そうやって揺らぐから、放っておけないんだ。何度忌々しくて見捨てようかと思っても、
     あなたが泣きそうなのに我慢しているから、戻ってしまう。
エルザ  子供の頃の癇癪持ち出すのは卑怯じゃないか。
ユン   小さなあなたは可愛らしくて、同じくらい憎たらしかった。もう知ったことかと庭に飛び出して帰ろ
     うとするのに、あなたが追いかけて来るんだ。ユン、命令だから戻ってきなさい。私の命令が聞けな
     いの、って。すがりつきたいくらい不安なのに、俺が振り向いてしまうと強がって、だったら好きに
     しなさいと怒鳴った。
エルザ  そうだったか?
ユン   当然俺は、あんたに命令されるいわれはない、俺の主人はあんたの父親で、あんたじゃないからな!
     って怒鳴り返した。結果、こっぴどく叱られるのはいつも俺だった。
エルザ  ……悪かったよ。
ユン   今でも大して変わらないだろ。
エルザ  頼りにしてるんだ、本当に。でも巻き込んで悪かったとも思ってる。
ユン   あなたを一人にすると、結局後始末をするのは俺なんです。だったらついて行った方が良いでしょう。
エルザ  ありがとう。
ユン   さあ、あなたにしんみりなんて空気が似合うとでも思っているんですか。
エルザ  失敬なやつめ。
ユン   勝負は明日です。気合い入れて行きましょう。
エルザ  ああ。私は負けない。折れない。望むものを手に入れるまではな。
ユン   それでこそあなたです。

スバル  ユーキ。
ユーキ  スバル……。
スバル  不安?
ユーキ  当然だ。不安がないわけないじゃないか。
スバル  驚いた。ユーキにもそういうところあるんだ。
ユーキ  ちょっと馬鹿にしてるだろう。
スバル  いや、ごめん。驚いたんだ。本当に。
ユーキ  ……明日、うまくいけばいい。ただそれだけでいい。
スバル  ねぇユーキ、君の本当の願いを教えて。
ユーキ  願い?
スバル  仲間のこととか、この国の行く末とか、そういうこと全部抜きにして。ユーキがただしたいことを教
     えて。希望。ユーキにとっての、一番大切な未来を教えて。
ユーキ  私の、希望……そんなの。
スバル  ないなんて言わせない。
ユーキ  でも……。
スバル  ユーキ。
ユーキ  ……あの家に、帰りたい。スバルの家に、帰りたい……!

ユーキ、救いを求めるようにスバルにすがりつく。

ユーキ  あったかかったんだ。人が生きていくための大切なものが、あそこには全部ある。余計なものはなく
     て、足りないものは優しさが補ってくれる。あの家は、便利ではないけど、とても暖かかったんだ。
スバル  帰ろう。
ユーキ  うん。
スバル  全部やって、あの家に帰ろう。俺が手伝うから。ユーキのしたいこと、俺が全部手伝うから。一緒に
     帰ろう。
ユーキ  うん。

スバルがユーキの手を引いて退場













翌日
エルザ、ユン、カイが登場

カイ   久しぶりだな。
エルザ  ああ。変わりないか。
カイ   おかげさまで。
エルザ  ユーキが戻ったのは知っているだろう。
カイ   知っている。そのおかげで、こうして平和的解決を図る事ができるんだろう。地上の話は聞いたか。
エルザ  ああ。興味深いことばかりだったよ。お前も聞いてみると良い。
カイ   そうするよ。すべてが終わったらな。
エルザ  終わらせるためにここに来たんだ。
カイ   ……終わらせよう。この国の未来のために。
エルザ  そうだ、興味深いついでに良いことを教えてやるよ。
カイ   なんだ。
エルザ  ユーキが男を連れて帰った。口説かれてまんざらでもなさそうだ……おや、顔色が変わったな。
カイ   ……驚いているよ、とても。
エルザ  今更惜しむくらいなら手を離さなければ良かったんだ。つかず離れずぐずぐずしているうちにこんな
     にも道は隔たってしまった。
カイ   そんなものじゃない、俺たちは。
エルザ  ユーキもそう言っていたよ。私には理解できなかった。まるでつがいの鳥のように傍にいるのに、な
     ぜお前たちには恋情が湧かないのかとな。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa