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隻眼の鳥

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反政府組織の幹部たちが集まってくる

エルザ  みな知っていると思うが、先日政府に対し会談を申し入れた。その返事が来たので伝える。
ユン   政府としては和解の余地があると考えている。国の行く末を憂う者同士、納得のいくまで議論をする
     のが国民に対する責任である。ただし、そちらが目的を遂げる手段として武力を用いるなら、政府は
     全力を挙げて鎮圧にかかる。
エルザ  無論、罠の可能性も否定はできない。だが、目指すは無血開城だ。
ユン   いいか。これから会談までの一週間、あらゆる暴力行為を禁じる。我々も会談にむけて準備をしなけ
     ればならない。
エルザ  会談に臨むのは私とユン、そしてじかに地上を見たユーキと生き証人、スバルだ。
ユン   そして、万が一決裂して俺たちが死んだ時の対処をここに記しておく。
エルザ  そして私から皆に頼みがある。各々が理想とする未来について、もう一度考えてほしい。我々の目的
     は、政府を倒すことか? それとも、地上へと這い出ることか? それは、手段でしかない。我々の
     目的は、ただ、己が、家族が、友人が、笑って暮らす日々を取り戻すことだ。この戦争を始めてしま
     ったのは私たちだということをゆめゆめ忘れるな。そして問いかけろ。目的を遂げるための最善の方
     法を。ただの暴力が何も生み出しはしないことを皆はもう知っているはずだ。
ユン   以上。解散だ。

集まった幹部がばらばらと出ていく。

スバル  ユーキ、どうした。
ユーキ  エルザはやっぱりすごいやつだと思って。
エルザ  おほめにあずかり光栄だよ。
ユン   二人とも、会談に出てもらうよ。いいね。
スバル  もう決定事項なんだろう。
ユーキ  危険は高い。あなたは無理をしなくてもいいんだ。
スバル  ここまで来て俺が黙ってたら説得力なしだろう。いいよ。言ったろ? 悪運は強いんだ。
エルザ  恩に着るよ。悪いね。こんなことに巻き込んで。
スバル  自分で飛び込んだんだから世話ないさ。それに、ユーキを一人にするのも気が引けたんだ。
ユン   会談ではいよいよ直接対決かな。
スバル  初めっからガンつけとく。
ユーキ  何言ってるんだふたりとも。ばかばかしい。
エルザ  でもまじめな話、カイには期待しない方がいいんじゃないか。
ユーキ  どういう意味だ。
エルザ  学生の頃のようにはいかない。時は経ったし、立場も変わった。おのずと考え方も変わるはずだ。い
     つまでもカイと同志のようなつもりでいると、痛い目をみるんじゃないか?
ユン   だからと言ってカイを責めるわけではないし、おそらく先に裏切ったのは僕たちだからね。
ユーキ  カイは、変わらないよ。
エルザ  どうしてそう言い切れる。盲目的すぎてかえってお前が心配なんだ。
ユーキ  ……私が地上に旅立つ時、カイが来たんだ。
エルザ  カイが?
ユーキ  ああ。その時に話した。私は外で、あいつは中で、この内戦を終わらせるって。だから私は信じてい
     られるよ。たったそれだけの言葉だけど、私はそれで羽ばたける。それに―――もし、もしカイが私
     を裏切ったとしても、きっと私は平気だよ。
ユン   平気なわけないだろう。
ユーキ  信じているだけでいいんだ。例え姿が見えなくても、声が聞こえなくても、あいつのことを信じてい
     るだけで私は前に進める。
エルザ  ……分からないな、本当に。お前たちの関係は。
ユーキ  うん。私もよく分からない。どうしてそうなのか。
スバル  まぁ面白くはないが―――おそらくそれは尊いものなんだろうな。
ユン   だろうね。間違いなく。
エルザ  仕方ない。信じている者を疑えと言うのも妙な話だ。この話はここまで。さて、会談の準備はたくさ
     んある。ユン、スバル、ちょっと来てくれ。相談がある。
 
エルザ・ユン・スバルが退場
入れ換わりに老婆が入ってくる

老婆   ユーキ殿、ユーキ殿。
ユーキ  はい。私になにか。
老婆   外で、あなた宛へと手紙を預かりました。リナと言えば分かると。
ユーキ  リナ?! ……その人は、何処へ?
老婆   瞬く間に消えてしまわれたので、私には……。
ユーキ  ありがとう。

ユーキ退場。ややあって老婆も退場
入れ換わりにリナ。
心細げにユーキを待つリナ

ユーキ  リナ!
リナ   ユーキ! 良かった、来てくれたのね。ああ、無事に帰ってきてくれて良かった。
ユーキ  こんなところで何をやっているんだ、危ないだろう。
リナ   危ないのはこの国の何処にいても同じです。
ユーキ  あなたは立場があるだろう。カイが許したのか?
リナ   いいえ、あの人には何も言ってないの。
ユーキ  早く屋敷に帰りなさい。
リナ   私、今はあの屋敷を出て町はずれに暮らしているの。あの屋敷は危険だからと。
ユーキ  ではそこに戻るんだ。
リナ   ユーキにお願いがあって来たの。
ユーキ  願い?
リナ   もし私たちに何かあった時に……私たちの大切なものを、あなたにあずかって欲しいの。
ユーキ  何かだなんてそんな。
リナ   このご時世、何があってもおかしくないでしょう?
ユーキ  あなたのことはカイが守る。
リナ   そうね、そうだけど。ねぇ、お願い。あなたにしか頼めない。
ユーキ  ……仕方ないな。だが、預かるだけなんだろう?
リナ   ここが私の隠れ家。大切な、大切なものなの。どうぞ、よろしくお願いします。
ユーキ  私で、いいのか?
リナ   あなたでなきゃ嫌なの。あの人が一番信頼しているあなたでなきゃ。
ユーキ  随分買い被られたものだ。
リナ   私ね、ずっとあなたが羨ましかったの。学生の頃、あなたたちがいつも楽しそうにしていて、私には
     とても輝いて見えた。そしてユーキは、誰が見ても分かるあの人の特別だった。
ユーキ  何を。特別なのはあなただろう。恋をすると男はこんなにも馬鹿になるものなんだと目の前で見せつ
     けられたぞ。
リナ   あなたみたいに、あの人に頼られる人になりたかった。強くて、一人で羽ばたける人に。
ユーキ  ……むごいことを言うものだ―――昔、あなたのように在れたらと願ったこともあった。
リナ   どういうこと?
ユーキ  そんなに自分を見くびるな。あなたは誰よりもカイの支えになっている。あいつが何のために頑張っ
     ていると思っている? ひとえにあなたとの幸福な未来のためだ。
リナ   ……ありがとう、ユーキ。
ユーキ  礼を言われることじゃない。
リナ   それじゃあ、約束、お願いね。
ユーキ  ああ。できることならそうならないよう願うよ。
リナ   ありがとう。本当に―――ありがとう。

リナが足早に去る。

スバル  ユーキ? あ、いた! ユーキ!
ユーキ  スバル、どうした。
スバル  どうしたじゃないよ。いつの間にかいなくなってたから探しに来たんだ。何してたんだ?
ユーキ  人と会ってた。
スバル  ふうん。友達?
ユーキ  いや、憧れの人だ。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa