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隻眼の鳥

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ユーキ  多分、土壌と栄養剤の相性が悪かったんだな。
ユン   そう言う意味で言ってるんじゃない!
エルザ  良いじゃないか、結局もみ消せたし。
ユン   エルザがそう甘やかすからユーキは調子にのってどこまでも……!
エルザ  ユーキは自然災害だと思おうじゃないか。どうせこちらが何と言っても聞きはしない。
ユーキ  あんまりな言い様だな。
エルザ  いや、お前はどうしようもない人間だ。周囲となじもうなんて考えるだけ無駄だ。間違いなく反発を
     食らう。教授会のようにな。だから、これからは途方もない人間を目指せ。果てしなく遠くを目指し
     て斜め上めがけてかっ飛び続けろ。そうすれば誰も文句は言えないし、もしかしたらお前の背中に憧
     れる人間が現れるかもしれん。
ユーキ  彗星みたいだな。
ユン   感心するところじゃないだろう!
ユーキ  あ、カイだ。
エルザ  カイ? 何処に。
ユーキ  ほら、そこ。カイ!
カイ   ようユーキ。教授会に大目玉食らったって? 今度こそ退学か?
ユーキ  いや、エルザとユンが助けてくれたよ。
カイ   良かった。お前がいなくなるとつまらないからな。
ユーキ  お前の退屈しのぎのためにいるんじゃないんだが。
カイ   事実だ。
エルザ  政治学の主席に退屈な時間なんてあったのか?
ユン   自分がいつも次席だからって根に持たない、根に持たない。
エルザ  うるさいな。
カイ   残念ながら退屈だ。俺たちは世界の仕組みを知らなすぎる。こんな狭い場所にこもってても何も分か
     らない。教えられるばかりの今の環境にはうんざりしているのさ。
ユーキ  やっぱり探検が必要だ。
カイ   だろう。
エルザ  今度はなにを見つけてきた。
カイ   政府の新プロジェクト。地上への道さ。
ユン   やめとけって。洒落にならない。
エルザ  面白そうじゃないか、話せ。
カイ   電力供給のために、地上に道を通すらしい。
ユーキ  じゃあ、上手に潜りこむと……
カイ・ユーキ  地上にでられる!
ユン   声が大きいよ! そんなこと口にするだけで危険思想だと思われる!
エルザ  いいじゃないか、詳しく聞かせろ。

リードがやってくる

リード  カイさん! こんにちは!
カイ   リード。どうした。
リード  ちょうど向こうから見えたので。エルザさん、ユンさん、こんにちは。
エルザ  これは御曹司。久しぶりだな。
リード  カイさん、今度勉強を教えてほしいんですけど。
カイ   ああ、いいよ。頼もしいな、この前まで興味なさそうだったのに。
リード  それ随分前のことでしょう? 今は目標があるので、頑張ってるんですよ。
エルザ  目標?
リード  はい。大学に入って政治を学んで、いずれあなたの片腕として働くことです。
エルザ  惚れられたもんだな。
カイ   俺の片腕?
リード  はい。その人より役に立って見せます。
ユーキ  わたし?
リード  いつまでも一緒にいられると思うなよ。立場が違うんだ。
カイ   リード、そういう言い方をするな。
リード  ……。
エルザ  なんだ、姉の恋敵だと思って嫉妬してるのか?
ユーキ  そういうのじゃ……
ユン   からかうなよエルザ。

リナがやってくる。

リナ   リード、何してるの。
カイ   リナ。
リナ   皆さんごきげんよう。リード? ご迷惑をおかけしてないでしょうね。
カイ   いや、とんでもない。
エルザ  今日はまた一段と美しい装いだね?
ユーキ  綺麗だよ、リナ。
リナ   ありがとうございます。
リード  あなたに美しいものを鑑賞する目があったとは。
リナ   リード!
リード  ねぇカイさん、約束だよ、今度勉強教えて。
カイ   ああ、分かったよ。
リード  じゃあ、また!

リード去る。
気まずく見送る面々。

カイ   なんというか、悪かった。ユーキ。
ユーキ  私は構わないが……随分と嫌われたものだ。
リナ   本当に申し訳ありません。
エルザ  なんだか根の深そうな感じだな。
リナ   あの子は、時々そういうところがあって。多分、カイさんの近くにいる方すべてに多かれ少なかれそ
     ういう感情を持ってしまっているようで。
ユン   ……否定はしないが、受け入れ難くもある……。
エルザ  そういう意味じゃないだろう。
カイ   俺からも言ってみようか?
リナ   そうしていただけると嬉しいです。
カイ   お安い御用だよ。
エルザ  未来の奥様にはカイもそういう顔をするのか。
カイ   からかうなよ。
ユン   いや、良い物をみせてもらった気分だ。
カイ   ユン!
ユーキ  いいじゃないか、その二人が険悪だとこっちが落ち着かない。
エルザ  それもそうだな。
リナ   お邪魔してごめんなさい。私もそろそろ行きます。
カイ   そうか。これから何か?
リナ   ええ、父のご友人の方と会食が。
カイ   君も大変だとは思うが、頑張って。
リナ   はい、ありがとうございます。
カイ   来週時間がある?
リナ   はい、たぶん。
カイ   開けておいて。
リナ   嬉しい。どこかにお誘いいただけるの?
カイ   また連絡する。
リナ   ええ。では皆さま、失礼いたします。

リナ去る。
その背中でカイを小突き倒す三人。

ユン   持つべきものは可愛らしい恋人か。
ユーキ  カイ、ところで地上への道って?
カイ   そうだった、いくつか予想している地点があるんだ。

話しながらエルザ、カイ、ユン退場。

ユーキ  ……あの頃が一番楽しかった。馬鹿なことばかりやって。
スバル  ユーキ、やっぱり君は。
ユーキ  ううん、違う。恋だと思ったことはあった。カイと出会った時、まるでもう一人の自分を見つけたよ
     うな気がした。不思議なほどに気が合う、片割れに出会ったような気が。でも、違う。私は自分のな
     かにくすぶる漠然とした寂しさの逃げ道をカイに求めただけだった。
スバル  寂しさ。
ユーキ  私がスラム育ちだと話したろう?
スバル  聞いたよ。
ユーキ  帰る場所、という気持ちが私には分からないんだ。愛してくれる人も、守ってくれる人もすべて振り
     切って、ただ走っていくことしかできないんじゃないかと思って、それがたまらなく不安だった。待
     っていてくれるひとのもとに帰る、そんな気持ちになってみたかったんだ。
スバル  子供のころからそんなことを考えてたのか。
ユーキ  子供には家族が必要だ。私をスラムから救い出してくれた老夫婦は、私が学校に入る前に亡くなって
     しまった。温かい場所への憧れだけ残してな。
スバル  君は寂しい人だ。
ユーキ  ああ。そうだな。
スバル  でも、強い。
ユーキ  ……案外な。さぁ、もう遅い。私は寝るよ。
スバル  ああ、俺もそうする。
ユーキ  スバル……ありがとう。
スバル  ……。

ユーキの去る背中をゆっくり見送る。

スバル  君は帰れるよ、ユーキ。君の寂しさをちゃんと受け止めてくれる人の隣へ。

スバル退場。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa