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隻眼の鳥

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ユーキ  人を懐かない猫みたいに言うな。カイとはそういうのじゃないんだ、本当に。二人が一番知ってるじ
     ゃないか。
エルザ  それもそうだね。
ユン   積もる話もあるが、まずはユーキの見てきた世界の話を聞こう。えーと、スバル。君の話も聞いてみ
     たい。
ユーキ  ああ。話そう。何もかも。

四人が連れだって退場。











カイが一人、書類に目をとおしている。

カイ   ユーキが、戻った……。戻ったのか。

リナ   あなた。入ってもいいかしら。
カイ   どうぞ。
リナ   どうしたの? 変な顔して。
カイ   変な顔とは御挨拶だな。見慣れた夫の顔だろう。
リナ   だって、嬉しそうなのに、哀しそう。
カイ   ……嬉しいさ。嬉しいに決まってる。
リナ   なにがあったの?
カイ   いや、ユーキが戻った。
リナ   無事だったの。
カイ   ああ。多分な。これで地上の様子が明らかになる。政府は地上へ行くことを禁じる理由を失うだろう。
リナ   それが哀しいの?
カイ   まさか。喜ばしいことだ。これで長かった内戦にも終わりの兆しが見えてきた。
リナ   じゃあどうして。
カイ   ……戻らなければいいと、思っていたんだ。
リナ   ユーキ? なぜ。
カイ   こんなくすんだ世界、あいつには似合わない。もっと強い風の吹く、大きな空の下の方があいつには
     ふさわしいだろう。しがらみを捨てて、新しい場所で羽ばたいてくれたらと思っていたんだ。
リナ   でも、そんなの寂しいわ。自由は孤独よ。誰かとつながってこそ人は生きていけるのに。
カイ   この箱舟はあいつには狭すぎる。
リナ   そんな風に言わないで。それを変えようとしているんじゃない。ユーキはあなたのために動いてくれ
     ているんじゃないの?
カイ   ……。
リナ   ねえ、ユーキに会わないの?
カイ   きっと近々会うことになるさ。
リナ   良かった。
カイ   ちっとも良くない。次に会うのはこの場だ。
リナ   ……会談……?
カイ   反政府組織のトップと総帥が会談をする。
リナ   お父様が。ということは。
カイ   事実上の最後通告だ。この会談が決裂すればノア全体を巻き込んだ全面戦争になり、もろとも心中だ。
リナ   開国、するのね……。
カイ   無論全面的に受け入れることはできない。
リナ   まだ準備が終わっていないのね。
カイ   ああ。疫病対策も、新しい政治の在り方も。まだまだ時間が必要だ。まぁエルザも、いきなり国を開
     こうとはしないだろうが。それから、現政府の人間の安全の保証が一番大切だ。このまま暴動になれ
     ば政府の人間は皆殺しという結末を招きかねないからね。
リナ   ……そうね。
カイ   支度は終わってるの?
リナ   ええ、だいたいは。
カイ   ここも、寂しくなるな。
リナ   あなたが言ったくせに。
カイ   リナ、おいで。

カイがリナを力強く抱きしめる。

カイ   君は生きるんだ。何があっても。いいね。
リナ   ……ええ。あの子を守って、生きるわ。
カイ   僕も、すべてが片付いたら君を追う。約束の場所は覚えているね?
リナ   はい。あなたのことを待っているわ。ずっと。
カイ   ばあやに迷惑をかけないように。
リナ   はい。
カイ   あの子のことを頼んだよ。
リナ   はい。
カイ   ……。
リナ   あなた、大丈夫でしょう? だってあなたは死なないし、全部終わったら3人で暮らすのだもの。
カイ   そうだね。
リナ   気が向いたら、お父様とリードも混ぜてあげても良くってよ。
カイ   ぜひお誘いしよう。
リナ   あの子だって、兄弟が必要だわ。
カイ   友達も増やさないと。
リナ   ね、大丈夫だわ。
カイ   ……気をつけて。
リナ   あなたもね。……愛しているわ。
カイ   愛してる、リナ。

惜別。リナが出て行くのをたっぷりと見送る。

リード  入ります。
カイ   ああ。
リード  今日だったんですか、家を出るのは。
カイ   今生の別れにはならないようにしないとな。
リード  厳しい状況でしょうね。
カイ   君も離れて良かったんだ。
リード  いえ。自分は此処でしか生きられませんので。
カイ   俺もだ。……話は、今度の会談のことか。
リード  はい。どういう方針でいくおつもりかと。
カイ   開国はしよう。以前開国に向けてまとめた大綱があったな。
リード  どうしても開国しなければならないのですか。
カイ   もうこの流れは変えられない。
リード  政府が犯罪者のいいなりになるなど。これでは暴力に負けたことになるのではありませんか。
カイ   だが、国民の総意でもある。それにこの国はもう限界だ。外の世界に生きる道があるなら、開くしか
     あるまい。
リード  しかしそれではどうやって民を守ると言うのです。
カイ   それを考えるのが政治家の仕事じゃないか。大綱を見せてくれ。いくつかは根本から見直しが必要な
     はずだ。明日までに骨組みを固めないと。
リード  ……はい。
カイ   ……明るい未来を信じるんだ。誰もが幸せになるにはどうすればいいかを考える。俺たちが未来を諦
     めたら民は光を失う。
リード  明るい未来、ですか。
カイ   君には夢はあるか?
リード  いや、自分は、そのようなことを考えたことは。
カイ   夢は持った方が良いらしい。想像力は実現力につながるからと。昔、ユーキに言われたよ。
リード  ではあなたにもあるのですか。夢が。
カイ   ……明るい空の下で生きてみたい。強い風の中。それがどんな荒廃した世界でも間違いなく美しい
     と思わないか。
リード  ではあなたは初めから。
カイ   いや……俺は叶わなくても、かなえてくれる奴らがいる。
リード  不可解です。
カイ   だろうな。俺も不可解だと思っているよ。あいつが見る世界を俺が見て、俺が見る世界をあいつが見
     る未来を作りたいと話をしたとき、本当にそうなればいいと思ったんだ。
リード  ……大綱を持って参ります。
カイ   頼むよ。俺も資料を集めてくる。

二人別々の方向に退場
スバル・ユーキ登場

スバル  ねぇ、ユーキが学生のころってどんな子だったの。
ユーキ  普通の学生だった……嘘だ。破天荒が過ぎて、何度か大学を追い出されそうになった。
スバル  でも追い出されなかった?
ユーキ  ああ。エルザやユンが守ってくれたからな。持つべきものは特権階級の親だな。
スバル  教えてくれよ。良いだろ、隠すことじゃない。
ユーキ  私が学生のころは……そうだな。くだらない遊びばっかりしていたよ。

エルザ(学生)、ユン(学生)が登場

ユン   信じられない。ユーキ、君の研究課題は何だ。
ユーキ  世界の調和のしくみ。
ユン   そうだよな、僕もそうだったと記憶しているよ。だったらなぜそれがイモの巨大化大量発生になるん
     だ! それも教授の許可を取らずに勝手に温室を使って。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa