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隻眼の鳥

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ユーキ  ああ。この景色を、見せたい。
スバル  やっぱり好きな男だろ。
ユーキ  違う。もうそんなのじゃない。
スバル  へえ。
ユーキ  ……スバルは、男に生まれたくなかったって思ったことはある?
スバル  あるよー男ってのは本当に理不尽な生き方しかできないんだ。見渡す限りの女たちはみんな気が強く
     て男たちなんて下僕扱いさ。
ユーキ  私は男に生まれたかった。男なら、腕っ節ひとつでなりあがることだってできた。男なら、酷い目に
     遭うことだってなかった。男なら、大切なものだって守りとおせたし、男なら、こんなややこしい気
     持ちにならずに済んだ。
スバル  ……そっか。
ユーキ  女がひとりで生きていくのは大変なんだよ。
スバル  ここで一人はもっと大変だよ。
ユーキ  だろうな。
スバル  ユーキ、俺を連れて行け。
ユーキ  何を言い出すんだ。
スバル  ノアって一回行ってみたかったんだよな。
ユーキ  あそこは危険だ!
スバル  ここだって危険だろ?
ユーキ  戦争しているんだぞ!
スバル  そんな中、一人で帰す方がどうかしてるって思わないか。
ユーキ  あなたをみすみす死なせるわけには。
スバル  それって自分は死ぬつもりってこと?
ユーキ  そうじゃないけど。
スバル  俺は頑丈だし、悪運は強い方なんだ。大丈夫だよ。
ユーキ  でも。
老婆   行っておいで。
スバル  ばあさま。
老婆   止めたって無駄だよ。そいつは強情なんだ。せがれにそっくりでな。
ユーキ  でも、この家を守るのは。
老婆   なに、婿殿もいるしなんとかなるだろう。
スバル  ありがとうばあさま。
老婆   しっかりつかまえておいで。
スバル  まかせろ。
ユーキ  何の話を。
老婆   さあ、朝餉だよ。そろそろ中に入りなさい。
ユーキ  まだ話は……!
老婆   今日はちょっと遠くまで行ってくると良い。せっかくの天気だ。海や山をみて、私たちがどう生活し
     ているか見ておいで。
スバル  行こう。
ユーキ  ……なんだか、なぁ……。

老婆とスバルが連れだって、追ってユーキが退場。






エルザとユンが話しながら登場。
警備する兵。

エルザ  ユーキはまだ戻らないか。
ユン   長いね。
エルザ  まさか死んでやしないよな。
ユン   めったなことを言うなよ。それにもしユーキに何かあったら、カイが動くに決まってる。
エルザ  それもそうだが。
ユン   焦る気持ちもわかるけど、待つしかないよ。
エルザ  ……ああ、そうだな。焦っていた。このところ、暴走が過ぎる。
ユン   反政府活動が活発になるにつれ、勝手に組織を名乗るものが現れ出したね。
エルザ  私たちがやっていることがただの犯罪だとどうして気付かない。犯罪では世界を変えられはしないの
     に。ただの暴力に正義の名をつけてごまかしているだけだ。
ユン   支配されてきた反動かな。
エルザ  内部分裂が起きるかもしれないな。過激派と、穏健派、ただ暴れたいだけの者。
ユン   これ以上長期化すると、その可能性は高まるね。
エルザ  ……待てないな。
ユン   書状の準備はできている。
エルザ  もう少し機が熟して、政府内部にも味方を増やしてからと思ったんだが。
ユン   賭けになるね。
エルザ  ここで握りつぶされれば全面戦争だ。そうすれば、ノア全土を巻き込むことになる。
ユン   巨大な人質だね。犯罪者が板についた。
エルザ  やめてくれ、私が過激に走ろうとしたときに止めるのがお前の役割だろう。
ユン   止めるべきことは止めるよ。今は、これが一番の手だ。
エルザ  政府に銃口を向け、開国をせまろう。
ユン   ユーキが戻っていれば、政府の鎖国の理由を消すこともできたんだけど。
エルザ  それが最善の策だったがな。だが、これ以上待てばこちらが内部から瓦解しかねない。目的を忘れた
     暴力に堕ちる前に手を打たないと。
ユン   そうだね。使者を立てる準備をしないと。

男が入ってくる。ユンになにがしかを伝え、去る。

エルザ  どうした。
ユン   エルザ。とんでもない知らせだ。
エルザ  なに。
ユン   ……。
エルザ  もったいぶるな、早く言え。何が起こった。
ユン   落ち着いて聞いてくれ。
エルザ  今更並大抵のことじゃ驚かんよ。何が起こった。そんなに悪い知らせだったのか。
ユン   さっきの計画はなしだ。初めからやり直そう。
エルザ  ……まさか、離反グループが出たか。それとも、政府に何か……?
ユン   ……ユーキが……。
エルザ  まさか、死―――
ユン   帰ってきた!!! ユーキが帰ってきたぞ!
エルザ  ……は……。
ユン   今死んだって言おうとしただろう!
エルザ  な、だって、お前が変にもったいぶるからっ!
ユン   強硬策はなしだ! とにかくユーキを迎えに行こう!
エルザ  ああ!

男の声  なんだ貴様。
スバル  お前こそなんだ。
ユーキ  スバルやめろ!

エルザ  ……。来たみたいだ。
ユン   ……相変わらず、騒ぎの渦中にはユーキありか。
ユーキ  エルザ! ユン! ただいま!
エルザ  良く戻った、ユーキ。無事だったんだな。
ユン   良かった、本当に良かった。
ユーキ  こっちは随分荒れたみたいだな。
エルザ  街を見てきたのか。
ユーキ  長く不在にして悪かった。
ユン   いいよ。それで、地上の様子は―――その人は?
スバル  どうも。
ユーキ  聞いて驚け、この人はスバル。地上の人間だ。
ユン   地上の?!
エルザ  ユーキ、その男を保護しろ。今にユンの実験台にされてしまう。
スバル  なんだと。
ユン   一回でいい、身体検査をさせてくれ、それから採血と負荷試験と、ああ髄液のデータも欲しい!
ユーキ  大丈夫だスバル、お前は私が守る。
スバル  まあ頼もしい。あたし、嬉しいっ。
エルザ  なかなか愉快な男だな。
ユーキ  だろう。何せ私を口説こうとするんだから頭のどこかがおかしいとしか思えないんだ。
ユン   僕が検査してあげるよ!
エルザ  いい加減にしろ変態め。早く元に戻れ。しかしユーキも散々な言い方だな。ほら戻れ。戻れ。戻った
     か?
ユン   痛い痛い痛いエルザ痛い。
エルザ  叩けば治るだろうと思って。
スバル  この男が、お前の相棒か?
ユーキ  ユンはエルザの相棒だ。生まれつきね。
エルザ  ユーキの相棒は、政府の実質トップだ。
スバル  え? だってユーキは……。
ユーキ  目的は同じだ。生き方が違うだけだよ。
エルザ  世の中それを決別と言うんだ。
ユーキ  まわりにどう思われたって良い。あいつと同じ方を向いて生きているって信じているだけで、私はこ
     の道を行ける。
スバル  ……敵わないなぁ。
エルザ  私はあながちあなたも捨てたものじゃないと思うが。
ユン   そうだね。何と言ってもユーキがカイ以外の男にここまでなつくなんて。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa