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隻眼の鳥

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ユーキ  先祖に代わって詫びるよ。私たちは、確かに一度世界を見捨てた。
老婆   あの時は仕方がなかった。そうするのが最善の道だったんだよ。悔いることじゃない。
ユーキ  でも。多くの人を見捨ててできたノアなのに、あの国の人間は……。
老婆   ……ゆっくり聞こう。まずは安全な場所と温かい食べ物が必要だ。
ユーキ  ……すみません。
スバル  じゃあ、俺ひとっ走り先に行ってるよ。姉さんたちに知らせなきゃ。
老婆   何言っているんだい、逃げるつもりかい? おまえは私たちを守るのが役目だろう。
スバル  はーい。行こう、ユーキ。
老婆   年寄りをいたわらんか。
スバル  ばあさまは寝てたって獣の方が裾まくって逃げるから大丈夫だよ。

スバル、老婆、ユーキ退場


三人が退場したのとは別の場所から、カイ登場
追ってリードが出てくる。

カイ   被害の状況は。
リード  捕えていた政治犯のうち、残ったもの4名、脱走したもの36名、うち再び捕えたのはわずか2名で
     す。
カイ   実行犯は―――
リード  やつらです。
カイ   ……そうだろうな。
リード  あいつらの拠点は分かっています。そこを攻めるべきではないのですか。
カイ   スラムで正規兵が鎮圧行動をとったら、ただでさえ離れた人心はもう取り戻せまい。
リード  あのスラムはそもそも見捨てられた土地です。政府の所有する土地に勝手に浮浪者が住みついただけ
     ではありませんか。だいたい、あのスラムの住人は皆反政府組織の一員ですよ。
カイ   その浮浪者を救済もせず放置してきたうえに、犯罪者として一網打尽か? それを歴史的には虐殺と
     言うんだ。だいたい、そんなことをしたら全面戦争になる。
リード  すでに全面戦争だ。
カイ   政府が明らかな軍事運動をしてはいけない。あくまで、無益の殺傷を止めるために動くべきだ。
リード  あいつらは犯罪者です、それをなぜそこまで。
カイ   ……。
リード  初めはただの小競り合い、それが組織化して、今はまた組織の枠をはみ出した運動をする連中が出て
     きた。やつらは段々過激になってきている。あなたの命は―――狙われているんですよ。
カイ   そうだな。
リード  あなたがあいつらを止められなかったら、父は言うまでもなく、いずれあなたも姉さんも殺されるし
     かない。それがわかっているんですか。
カイ   もちろんわかっているさ。
リード  わかってない! わかってないからそんなことを言うんです!
カイ   リード。
リード  ……すみません。

リードが飛び出すように退場

カイ   殺されるしかない、か。この命で賄えるならいっそ本望さ。

リナ  (舞台袖から)あなた? 入ってもいい?
カイ   おいで。
リナ  (入ってきながら)さっき、リードがすごい剣幕で歩いてたわ。どうしたの?
カイ   ちょっとした行き違いだ。
リナ   ごめんなさい。あの子は悪い子じゃないんだけど。
カイ   いや、真剣で、とても好ましい青年だよ。
リナ   真剣すぎて突っ走る癖があるの、知ってるわ。
カイ   眩しいよ。
リナ   悪い癖の話をしてるの。
カイ   いいじゃないか。それより、何か用があった?
リナ   用がなければだめ?
カイ   駄目なことはないけど。
リナ   嬉しい。あなたのそういう優しいところが好きよ。
カイ   俺は君のそういうところが羨ましいよ。
リナ   あなたが、落ち込んでいるんじゃないかと思ったの。
カイ   落ち込む? 俺が? なぜ。
リナ   だって……エルザのこととか。
カイ   仕方のないことだ。時代の流れには逆らえない。
リナ   どうしてあなたはそうなの? 私は耐えられない。あんなに仲が良かったのに、今は敵対する関係だ
     なんて。
カイ   敵対しているわけじゃない。ただ方法が違うだけだ。
リナ   どういうこと? だって、国の方針は決まってるわ。地上は恐ろしいところだってまた派遣団が。
カイ   地上が恐ろしい場所でないことが分かれば方針は変わるさ。
リナ   あなた、開国すると思ってるの?
カイ   いつまでもこのままじゃいられない。
リナ   こんなに安全な場所はないって思ってるわ。
カイ   この閉ざされた空間ではこれ以上の生き物は生きていけない。だんだんと寿命が短くなっているのは
     知っているだろう? 慢性疾患にかかっている者も増える一方だ。
リナ   それがノアの弊害だというの?
カイ   いくらノアがあらゆる選抜をくぐりぬけた者の血筋で構成されたとは言え、環境は生き物を作り変え
     る。
リナ   そんな。
カイ   でもね。今すぐ開国することはできない。
リナ   ……そうね。ノアの環境で育った者が、はたして外の環境に適応できるのか。
カイ   外はどんな世界で、どういう生き物がいて、どんな病気があるのか。そもそも、人間が生存している
     のか。
リナ   最近の頻繁な地上派遣はそのための?
カイ   ああ。だが彼らは真実を告げない。
リナ   なぜ。
カイ   わからない?
リナ   ……お父様のせいね。
カイ   だが、もう大丈夫だ。
リナ   どういうこと?
カイ   ユーキが世界を見ている。
リナ   地上に行っているの?!
カイ   ああ。あいつしかいない。この世界を変えるのは。
リナ   危険でしょう!
カイ   ユーキなら大丈夫だ。
リナ   信じられない。まさか一人で行かせたの?
カイ   もちろん。
リナ   酷いわ! 危険な環境に一人でなんて。あなた何を考えてるの!
カイ   大丈夫だ。あいつはあのスラムで生きてきた女だぞ。そこらの男よりよほど胆力も腕力もある。なに
     よりあいつは頭が良い。
リナ   ユーキに何かあったら……!
カイ   何かあったら、きっと分かる。
リナ   どうして!
カイ   昔からそうなんだ。それより、差し迫った危険ならむしろ俺たちの方にあると思うけど。
リナ   それは……それは、そうだけど。
カイ   ああ、きっと俺に何かあっても、ユーキなら分かるんじゃないかな。
リナ   何かあってだなんて怖いこと言わないで。
カイ   ごめん。けど、大切なことだよ。俺がいなくなったら、ユーキを頼るんだ。いいね。
リナ   ……本当に不可解よ、あなたたちの関係って。
カイ   親友だよ。あいつが女なのが不思議だ。こんなに気を使わないで済むんだから。
リナ   そんなこと言ったらユーキが怒るでしょう。
カイ   殴られたよ。女に殴られて脳震盪起こしたのはあれが初めてだった。
リナ   あなたが悪いわ。
カイ   だろうな。
リナ   でも……うらやましいわ。私もユーキみたいになりたかった。
カイ   殴るの?
リナ   そうじゃなくて。あなたと同じ目的のために走り回る、同志になりたかった。
カイ   それは困るなぁ。
リナ   どうして。
カイ   僕はこんなにリナのことを愛していて、こんなに大事にしたいのに。同志になって隣や前に立たれた
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa