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隻眼の鳥

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ユーキ  私はここで離れる。
スバル  ユーキ?!
ユン   カイを助けに行くのか。
ユーキ  ―――いいや。カイは塔の上のお姫様じゃないから、おとなしく助けられてなんかくれないよ。
エルザ  何をするつもりだ。
ユーキ  頼まれたことがあるんだ。町はずれに出る地下通路がある。そこを通って私は外に出る。
スバル  何も今じゃなくても!
ユーキ  今だからだ。
ユン   カイの、頼みか。
ユーキ  ああ。
スバル  だったら助けに行ったら良いじゃないか、俺も手伝う!
ユーキ  助けに行っても、カイの望みをかなえることはできない!
エルザ  ……いいよ、行くんだ。ユーキ。
ユーキ  ありがとう。

ユーキ退出

スバル  ……ちくしょう!

スバル駆けだそうとする。

エルザ  後のことは任せろ。なんとかする。あいつのことは―――頼む。
スバル  あたりまえだ。
エルザ  ユーキは帰る場所のない渡り鳥だ。スバルがユーキのよりどころになってくれると、安心できる。
スバル  ―――元から、そのつもりだ。

スバルがユーキを追って退場
エルザとユンも、退場

カイがじりじりと出てくる
カイに銃口を向けたリードが出てくる

カイ   何のつもりだ。
リード  もうわかっているでしょう。
カイ   まさか混乱に乗じて反政府軍を一網打尽にしろとでも?
リード  ええ。でなければ、あなたには死んでいただくほかありませんね。
カイ   くだらない脅迫じゃないか。あくまでも開国には反対か。
リード  いいえ。開国に反対なわけではありません。
カイ   だったらなぜだ。
リード  あの連中に好きにさせたくなかったんですよ。
カイ   義父上は。
リード  最初から分かっていたんでしょうね。抵抗もせず、美しく散ってくださいました。
カイ   枢機卿は無事か。
リード  あの人は人質ですから。
カイ   どうだか。見せしめにするつもりではないのか。
リード  僕たちは連中のように野蛮ではありませんよ。
カイ   ほざくな。話し合いの上の平和的解決を図る唯一の手段を銃と爆弾で吹き飛ばしたのは誰だ。
リード  あいつらが政治の実権を握った時、僕たちはさらし首になるんだ。
カイ   殺される前にってことか。
リード  ええ。ですが、正確には違います。
カイ   なんだと。
リード  僕はね、あなたがやつらに殺されるのが許せなかったんですよ。
カイ   なに?
リード  あなたは僕の再三の忠告を無視し続け、とうとうこの神聖な政府中枢まであいつらを招きいれた。死
     ぬのは自分一人だと思っていたんでしょう? あなたには大事な人なんていない。守りたい人なんて
     いない。自分だけが死んで、残された人間がどうなるかなんて考えたことはなかったんでしょう?
カイ   どういう意味だ。
リード  あなた一人が死んだって、国民は僕たち一族を許しはしないんだよ! 僕たちが死んで初めてこの革
     命は成功するんだ!
カイ   そんなことはない! 平和的解決こそが民を正しい未来へ導く。血を流す争いの無意味さを今知らな
     くてどうする!
リード  甘いんだよ!(発砲)
カイ   甘くて何が悪い。人を信じて何が悪い。お前が敵だと言うエルザやユンやユーキのことを、お前がど
     れだけ知っていると言うんだ。
リード  あなたのそういうところが大嫌いなんだ。
カイ   俺はお前のことだって信じたいと思ってる。
リード  あなたはいつだってそうだ。そうやって正しいことばかりを言う! 正しく生きられる人間ばかりじ
     ゃないんだ!
カイ   お前は何がしたいんだ。
リード  ……。
カイ   殺されるかもしれないと怯え、己の所業の罪深さに慄き、思い通りにならないからと光の道を閉ざし、
     お前がやっていることは子供の駄々と同じだ。何がしたいんだ。希望は何だ。それを教えてほしい。
リード  希望なんか今更あるものか!
カイ   自分の絶望に他人を巻き込むな。
リード  うるさい! うるさいうるさいうるさい!(発砲)希望だと?! あの女があなたにそういう言葉を
     吹き込むのか。薄汚いあの女が! どうしてあなたは俺より、俺たちよりあの女ばかりを信じる!
カイ   そうじゃない、ユーキを悪く言うな。
リード  そうか、あなたはいつもあの女のことが一番大切でしたからね。俺たちより、ずっと、ずっと。
カイ   リードいい加減にしろ。
リード  いい加減にするのはあなたの方です。
カイ   お前の勝手にはさせない。
リード  片目で銃が撃てるものか!
カイ   試してみるか。

リナが飛び込んでくる

リナ   やめて!

リナきっかけに銃撃戦
倒れたのはリード
それを見届けて、カイも力を失う

カイ   リナ、どうしてここへ。
リナ   あなたをおいて、何処にいけるというの。
カイ   あなたと言う人は、まったく。

リナがおもむろに銃を持ち、己に突きつける。

カイ   馬鹿なことはやめなさい。
リナ   いいえ。添い遂げると誓ったのだもの。
カイ   仕方のないひとだ……あの子はどうするんだ。
リナ   信頼のおける方に託しました。
カイ   男の子には親が必要だとあなたが。
リナ   案外手放しでも育つものですわ。
カイ   男は傷つきやすい生き物だ。そのくせやんちゃはしたがるし、プライドは高い。
リナ   あの子が、強い子に育ってくれますように。あなたみたいに。……愛しています。
カイ   ……俺もだ。

リナ自分に向け発砲。

カイ   ユーキ。すまなかったな。後のことは頼む。お前は―――お前は、俺を越えて行け。

銃声
暗転



エルザ  今、閉ざされた扉が壊れた。これから先、私たちの旅を妨げるものはない。
     今日から始まる日々の中、私たちは想像を絶する困難に見舞われるだろう。
     今日という日を、いつか後悔する日がくるかもしれない。
     しかし、制約は解かれた。我々は自由だ。羽ばたく翼を止めることはできない。
     この日の評価は後世の者たちに任せよう。
     今はただ、この自由を勝ち取るために失われたあらゆる命に誓おう。精一杯生き、幸せになると。

エルザの演説の中、赤子を腕に抱いた老婆が出てくる。
赤子をあやし、やがて力尽きて座り込む。
ユーキが飛び込んでくる。
何かを探す中、二人を見つける。
老婆が事切れていることを知ると、老婆に託されたリナからの手紙を見つける

「お前は俺を越えて行け」
銃声

ユーキ  カイ……!

老婆の腕から子供を抱きとる

ユーキ  そう……そうだったか……お前は、いつだって勝手だな。同じものを目指すくせに、私には何でも頼
     むくせに、肝心な時にはいつも置いて行ってしまう。一度だって、私を手招いてくれたことなんてな
     かった。……よしよし。お前は良い子だね。カイ。この子は私が育てるよ。お前がそう望むなら。
スバル  ユーキ。
ユーキ  スバル、なぜここへ……。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa