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大樹とゆか

ゆか  どこに行くの。
叶内  どこへでも。
ゆか  目的があるんじゃないの?!
叶内  どこかに行きたいんだ。
ゆか  は?
叶内  いきたい。どこでもいい。どこかにいけるならどこだっていいんだ。誰も何も知らないところで、普通の暮らしをしたい。いきたい。だってどこででも生きていけるんだ本当は。
ゆか  ちょっと、大丈夫?!
叶内  どこかに行きたいんだ。どこかで生きたいんだ。
ゆか  ねぇ意味がわかんない。しっかりして。
叶内  ごめん……。
ゆか  ……水族館。
叶内  え?
ゆか  水族館に行きたい。
叶内  あるの?
ゆか  どこかにはあるわよ。
大樹  そうだね。水族館に行こう。
ゆか  私もどこでもいいの。どこかにいけるなら。

舞台奥が暗くなる
よろよろと加奈子が出てくる

加奈子 ゆかちゃん……ゆか、どこにいるの?

加奈子 ゆか、はやく帰ってきてちょうだい。お母さんをひとりにしないで。

加奈子 ゆか……、ゆか……。一人にしないで。勝手なことばかり言わないで……置いて、行かないで。

加奈子退場
全照

叶内  意外と小さなところだったね。
ゆか  しかもほとんど魚以外の水棲生物だった。
叶内  イルカショーが観たいな。
ゆか  観ればいいじゃない。
叶内  一緒に?
ゆか  叶内君ひとりで。
叶内  今日、帰るの?
ゆか  帰らなきゃ。
叶内  ……ゆか?
ゆか  ねえ、疲れちゃった。少し休もう?

早百合 そう、二人は疲れていた。家族も学校もどうでも良かった。本当は、このまま歩みを止めてしまいたかった。それが、大樹とゆかの偽りのない真実。私が後になって知るのは、こういうことばかり。あの時何がどうなっていれば、あの結末を迎えなかったのか……そんなことを、いまさら考えてしまう。あの時大樹がゆかを誘わなければ、あの時雄介が二人を止めていたら、ゆかが、あんな願い事を大樹にしなければ、もしかしたら、結末は変わっていたのかもしれない。けれど、そんなことを考えても仕方がないことはわかっていた。大樹とゆかの物語は、この時すでに結末への転機を迎えていたのだから。

早百合 雄介さんは、ゆかさんの話を聞いて……後悔しましたか?
雄介  あの時二人を止めていればって?
早百合 これから起こることを知らなかったから……仕方ないのかもしれないけど。
雄介  ……しました。あの時、どうして二人を送り出してしまったんだろうと、何度も思いました。わずかに感じた嫌なものをどうして振り払ってしまったんだと。早百合さん。私はあなたが私のことを恨んでいると思ったのです。
早百合 ……この日、私は部屋にいました。一人ぼっちで。兄さんがなにをしているかなんて、全然知らなかった……。

叶内  ゆか、ケータイなってる。
ゆか  いいよ放っといて。お母さんだもん。
叶内  ……。
ゆか  私のケータイの着信、全部お母さん。発信履歴なんてゼロだよ。
叶内  それってさ。
ゆか  友達いないから仕方ないよね。
叶内  ゆか。
ゆか  ねぇこういうホテルに入るのって初めて?
叶内  ……。
ゆか  緊張してるんだ。
叶内  ……。
ゆか  言っとくけど何もしないでね。
叶内  しないよ!
ゆか  ……学校休んでさ。ここでお金を稼いでた。
叶内  ……え?
ゆか  お父さんはお金を家にいれない。お母さんは働けない。どうやって生活できたと思う?
叶内  それ、親は知ってるの……?
ゆか  知らない。
叶内  ……そんな……。
ゆか  ショックだった?
叶内  ゆか……。
ゆか  触らないで!
叶内  …!
ゆか  私に触ったら許さない。簡単なことなんだよ、叶内君。大事なものでもなんでもないの。だから……叶内君にだけはおんなじことしてほしくない。
叶内  ゆか。
ゆか  いつも、少しうつむいて歩いている君が好きだった。
叶内  ゆか。
ゆか  最後まで聞いて! お母さんは、私を憎んでる。私がどこへでもいけるから! 私は、いつかお母さんに殺されてしまうかもしれない。だから一度でいい、あの家を出たかった。ねえ……叶内君。お願いがあるんだ。
叶内  何、突然。
ゆか  いつか……いつか、私を殺してほしいの。
叶内  え。
ゆか  だめ? できない?
叶内  だめだ、何言ってるんだ。
ゆか  自分で自分に傷をつけることはできても、死ぬことまではできないみたい。
叶内  自分に傷って、まさか(ゆかの手の内側を見る)
ゆか  血をね? 少しだけ抜くの。そうすると、ちょっとだけほっとするの。
叶内  こんなに。
ゆか  もう嫌なの……弱いの。私は、強くなんかないの。弱すぎて、自分で死ぬこともできない。
叶内  死んじゃだめだ、ゆか!
ゆか  お願い私を殺して。
叶内  いやだ!
ゆか  叶内君の意気地なし。
叶内  意気地なしとか、そんな問題じゃないよ。ゆか。ひとりで逃げるつもり?
ゆか  ……。
叶内  僕さ、ゆかと会うの楽しみだったよ。ゆかの強さがうらやましくて、もろさが悲しくて、いつか、ゆかのことを助けたいって思った。
ゆか  じゃあ助けてよ!
叶内  ……。
ゆか  どうしたらいい? どうしたらお母さんから離れられる? ねえ、教えてよ。助けてよ!
叶内  一緒に、逃げようか。
ゆか  どこに。
叶内  どこにでも。
ゆか  バカじゃないの。
叶内  うん。バカだ。本当にバカだ。(脱力したように笑って)僕たち、めちゃくちゃだな。
ゆか  そうだよ。だって私たち、家族もめちゃくちゃなんだもん。

しばし無言
叶内があくびをする

ゆか  眠いの?
叶内  ……うん。
ゆか  私も眠くなっちゃった。
叶内  ここにいてもいい?
ゆか  いいけど、私に触ったら許さない。
叶内  わかってる。
ゆか (ふいに思いついたように)手、つなごう。
叶内  え?
ゆか  迷子にならない、おまじない。
叶内  ……わかった。

ゆか  私たちは眠った。何も考えずにただ眠った。こんなに良く眠れたのは、久しぶりだった。私たちがホテルを出たとき、世界はもう朝になっていた。私はとうとう昨日帰らなかったのだ。母のことが心配じゃなかったわけじゃない。けれど、それ以上に、私は清々していた。そしてこの晩のことを、私は今でも後悔している。

叶内  ゆか、ケータイかして。
ゆか  何よ。
叶内  いいから(ゆかのケータイを取り上げる)
ゆか  ちょっとなにするの!
叶内  僕の携帯の番号とアドレス。
ゆか  勝手なことしないで。
叶内  かけてほしいんだ。
ゆか  絶対にかけない。
叶内  だと思った。(自分の携帯にかける)
ゆか  いい加減にしてよ!
叶内  発信履歴一番。リダイヤルひとつで僕につながるよ。
ゆか  絶対にかけないから!(ケータイを取り返す)
叶内  わかってる。でも消さないで。
ゆか  なんでよ。
叶内  お願いだから。
ゆか  意味わかんない。
叶内  わかんなくてもいいよ。ゆか。僕、ゆかのそういうところがずっと好きだった。だから一人では絶対に死なないで。ゆかが死ぬときは、そばにいたいから。……帰るの?
作品名:Re;cry 作家名:barisa