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上海lovers

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秀明  梅の花だよ、春蘭。
春蘭  そんなもの植えて、どうするの?
秀明  「東風吹かばにほひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」
春蘭  東風……なにそれ?
秀明  東風っていうのは、春風のこと。陰謀によって都を追われた政治家が、屋敷の庭に植わっている梅の木に言ったんだ。春になったら、俺がいなくてもちゃんと花をつけろよって。その香りを、俺のところまで届けておくれってさ。
春蘭  ふぅん。なんだか未練たらしい。
秀明  そう、未練の歌なんだ。
春蘭  どうでもいいけどね。
秀明  そっか。さーてこれでよしっと。いい気分転換もできたし、続きでも書こうかな。
春蘭  また書くの?
秀明  そうさ。俺は小説家なんだから。
春蘭  面白いの書けたら読ませてね。じゃ、あたし仕事だから。

春蘭がはける

秀明  もうすぐ、書き終わるんだ。君へ宛てた小説が。これが書き終わったら、お別れだ、春蘭。

暗転








5.
堀田以外の全員が劇中劇の衣装を身に着けている
上海lovers上演中
女将/田代

女将  秀明には、出て行ってもらうことにしたよ。そりゃあひどいことをしてるってのはわかってる。けど、日本人をかくまってるって知れたらどうなるか。わかっておくれよ春蘭。これは、あんたを守るためでもあるんだよ。それに……秀明自身が望んだことでもあるんだ。

女将はける

九龍  あの日本人を逃がすな。どんな手を使ってもいい。追い詰めるんだ。そしてここにつれて来い。最後の仕上げは俺がする。春蘭もいたら一緒に連れて来い。目の前であの男をいたぶってやろうじゃないか。そして絶望に染まるがいいさ。何をしても俺のものにならないのなら、そんなもの、いらない。

春蘭  逃げて。九龍は知ってたんだ! 今夜秀明がこの町から出て行くってこと! あんたが一人になるのを狙って襲うつもりなんだ! 秀明逃げよう。あたしが案内する。抜け道があるんだ。いいから早く! あたしは、あんたにだけは、無事でいてほしいんだ。あんたが日本人とかそういうのは関係ない。あたしは、あんたが、あんたという一人の人間が、好きなんだ。

九龍と春蘭が別々にはける
春蘭が出てくる
追って、秀明が出てくる

春蘭  ここまできたら、もう大丈夫。
秀明  ありがとう、春蘭。本当に、本当にありがとう春蘭。
春蘭  腕……怪我してる。
秀明  大した傷じゃないさ。
春蘭  ……どうする? これから。
秀明  ……。
春蘭  あの街には、もう、帰れない。
秀明  いや、君は帰るんだ、春蘭。
春蘭  え?
秀明  ここからさきは、一人で行く。
春蘭  そんな、だって!
秀明  俺と一緒にいたら、きっとまた、同じようなことが起こる。君に迷惑がかかる。
春蘭  迷惑だなんて思ってない!
秀明  女将さんの店だって荒らされた、世話になった人が、町から追い出された。君は、俺を守ろうといろんなことをしてくれた。だけど、それじゃだめなんだ。誰かを犠牲にしても、結局俺たちはこうして、逃げるしかなくなってしまった。
秀明  なんとかして日本人を捜す。やっぱり俺は、日本に帰るべきなんだ。この国の人のためにも。
春蘭  いやよ。
秀明  まだ引き上げ船があるって話を聞いたんだ。それで行く。
春蘭  いや!
秀明  お願いだ。これ以上、君を危険な目に合わせたくないんだ。
春蘭  私だって、私の知らないところであなたに危険な目にあってほしくない!
秀明  春蘭。
春蘭  あなたが戻らないのなら、あたしが一緒に日本へ行く。
秀明  馬鹿なことを言うんじゃない。
春蘭  思いつきで言ってるんじゃないの、ずっと考えてた。あなたのふるさとにいきたいって。
秀明  君がいなくなったら、あの店は誰が守るんだ。
春蘭  なんとかなるよ。
秀明  君が今日本に来たら、危険だ。わからないか?
春蘭  あたしなら大丈夫よ。
秀明  君が中国人というだけで、君はとても苦しい思いをすることになる! そんなのだめだ。
春蘭  あなたが一緒にいてくれるなら、あたしはそれでも構わない。
秀明  俺に君を守り通すことはできない!
春蘭  守ってくれなくたっていい! そんなのわかってる!
秀明  お願いだ。聞き分けてくれ。
春蘭  いやよ。
秀明  いつかきっとくる。
春蘭  ……。
秀明  今はむりだ。けれど、いつかきっと来るはずなんだ。日本人と、中国人が、互いに手を取り合って歩むことのできる未来が。
春蘭  ……以前も、そういっていたね。
秀明  君はここにいれば、安全に暮らせる。俺も、日本に帰れば大丈夫。
春蘭  秀明……。
秀明  信じていたんだ。君は、幸せだと。
春蘭  秀明のいない幸せなんて、ないよ。
秀明  覚えているか。「東風吹かば」
春蘭  梅の花?
秀明  あの歌には、こんな続きがあったんだ。その庭の梅の木は、春になって花をつけて、そして主の元へ飛んで行ったんだ。主を求めて。
春蘭  ……。
秀明  春になったら、頼りをくれないか。
春蘭  春になったら。
秀明  そう。君は幸せですって、便りをくれないか。
春蘭  そんな。
秀明  いつか必ずやってくる、日本と中国が、互いを認め合い、助け合う時代が。そのとき、俺は、必ず君に会いに来る。だから。
春蘭  梅の花……次の春には咲く?
秀明  ああ。
春蘭  あなたも、春になったら、幸せだって便りを、くれる?
秀明  ああ。
春蘭  ……。

秀明と春蘭が抱き合う

秀明  ずっと、ずっと、君と一緒にいたかった。
春蘭  ずっと、ずっと、あなたと一緒にいられるって思ってた。
秀明  愛してる、春蘭。
春蘭  わたしも。

二人がゆっくりと離れる

秀明  東風吹かばにほひおこせようめのはな主なしとて春なわすれそ
春蘭  きっと、また、会えるんだよね?
秀明  かならず! 会いに来る!
春蘭  じゃあ、さよならじゃないんだね?
秀明  ……再見。君が教えてくれたね。また会いましょうって意味だって。
春蘭  そうよ……再見。また、いつか必ず。

秀明がさってゆく
見送る春蘭

春蘭  秀明の弱虫。頑固者。わからずや。また絶対に危ない目にあって、それでも飄々と小説を書き続けるんだわ。……私も、秀明のいない生活に、戻るだけ。だけど。あなたを知ってしまった私は、もう以前の私には戻れない。愛してた、秀明。また、あなたに会えるまで、私は、笑ってる。春のように、ずっと、微笑を絶やさずに、生きていく。ありがとう、さようなら、私のいとしい人。

暗転
役者が一斉に出てくる
劇中劇のカーテンコール後

藤沢  お疲れ様でした!
田代  イエー!
安永  イエー!
柳   お疲れさまー!
田代  ほら、堀田も! イエー!
堀田  あ、はい、イエー!
安永  俺もカンフーがしたぁい!
堀田  あんたまだ言ってたのか。
田代  本当にうるさい。
藤沢  でも良かったよ、春蘭も、秀明も。
田代  あたしはあたし?!
藤沢  寿々は(言うまでもなく)
安永 (かぶせて)イマイチ。
田代  安永あんた1回ぶっ殺す。
安永  きゃーこわぁい。
柳   あー、楽しかった。
作品名:上海lovers 作家名:barisa