上海lovers
安永 帰れ帰れ。
田代 やっぱやめた、あんたが帰れ。星に帰れ。地球に二度と来るな。
安永 本当にかわいくねーなあんた。新しい店教えてやんね。
田代 なによ新しい店って。
安永 こないだ飲みに行った店の近くにもう一軒、できたんだよ。ま、あなたには教えませんけど。
田代 なんですって!
安永 藤沢さん、今夜暇?
藤沢 残念ながら予定が。
安永 なんだよまたかよー。じゃぁ堀田。暇だろ。
堀田 暇だよ悪かったな。
田代 ちょっと待ってよあたしを誘いなさいよ!
安永 誘われたいのか、仕方ないなぁ寿々ちゃんはー。
田代 むーかーつーくー!
柳 からかうのもいい加減にしてあげて、安永君。
安永 一緒に来てもいいよ。
藤沢 じゃあ練習な。ほらほら。稽古場に移動するぞ。
藤沢、安永、田代がはける
堀田 柳さん、行きましょう。
柳 ねぇ堀田君。もしもね。
堀田 はい?
柳 あ、ううん、なんでもないんだけど、思いつきなんだけどね、
堀田 はい。
柳 いえ、あのね。もし春蘭が、その、九龍のことを愛してたら、どうなんだろうなって思っただけ。
4.
安永 へー、美鈴がそんなことを。
堀田 うん。なんか深刻そうでさ。
安永 深刻なんじゃないかー? で、どうすんの堀田。春蘭も九龍を愛してるって設定にしてみるの?
堀田 それがさ、しようとしてみたんだけど、なんっかしっくりこねんだよ。
安永 じゃあ春蘭は俺のものってこった。
堀田 ……そのいいかたなんか癇に障るんだよな、どうしてだろう。
安永 春蘭はおれのもの。
堀田 やっぱおれあんたのこと嫌いだよ。
安永 ひどいっ! こんなに夢中にさせといて、アタシのことは遊びだったのね?!
堀田 ごめん心底気持ち悪い。
安永 ひどいわ、あんた悪い男だよ。
堀田 キャラが変わったよ。はあ……俺、恋愛もの書くの無謀だったかもな。
安永 俺はそうは思わないけどな。
堀田 いやだめだ。たぶん俺には向いていないんだ。
安永 お前って本当に物事悲観的にみてんな。じゃあなんで恋愛ものにしたんだよ。
堀田 そりゃあおまえ、その……あの……なんでだ。
安永 知らないよ。
堀田 安永は、恋愛したことあんの?
安永 どうした藪から棒に。
堀田 藪から棒も昭和だね。あんた確実に寿々さんが感染してるね。
安永 あるよ、一目ぼれだった。
堀田 ……へぇ。聞いてもいい?
安永 すっごく晴れた気持ちのいい日で、俺は授業サボって中庭で焼きそばパン食ってた。そしたらとなりに女の子が来て、やっぱり授業サボって焼きそばパン食べてた。おお仲間だ、と思ってたら、その子の連れの子が、くしゃみをしたんだよね。それもなんかこう、ぶえっくしゅ、みたいな、おっさんくさいくしゃみを。しかもくしゃみの後にうぃぃ〜みたいなのしててさ、もう完全におっさんだったんだよ。ああ、この子可愛いなぁと思って。
堀田 ……悪い、今の話のどこで惚れた?
安永 え、こう、全体的に。よくない?
堀田 わからない。
安永 とにかく俺はその人のことがもう可愛くて可愛くてしかたなかったからな〜。
堀田 どうしよう若干気持ち悪い。
安永 きっと秀明も九龍も、春蘭が可愛くて仕方ないのさ。アプローチは違えどもな。
堀田 そうかな。
安永 そうだよ。
田代 おまたせ!
柳 ごめんなさい。
安永 よーし、じゃあ行きますか!
堀田 藤沢さんもこれたらよかったのに。
柳 いいじゃない、いきましょ!
安永 (猪木風に)酔ってますかー!
田代 イエー!
安永 お酒があれば、なんでもできる!
田代 イエー!
二人 1! 2! 3! ダーッッ!(大爆笑)
田代 ほほほ、私を捕まえてごらん!
安永 待てよ〜! ハニ〜!
田代 あはははは。
安永 あはははは。
二人走り去る
柳 ついていけない……。
堀田 でもあの二人、そんなに飲んでないのでは。
柳 たぶん最初の生中だけ。
堀田 それであそこまで出来上がるって、ある意味すばらしいですね……面倒くさいことこの上ないですけどね。
柳 ありがとう、堀田君。
堀田 なにがですか?
柳 おばあちゃんのこと、話にしてくれて。
堀田 そんな、俺こそ、ありがとうございます。柳さんが話してくれなかったら、脚本だなんてとても書けなかった。
柳 なんだか他人と思えないんだ、春蘭が。だから、すごく気持ちで演じられる。
堀田 ……柳さんのおばあさんは、結局、中国の方と結婚したわけですよね?
柳 そう。幼馴染とね。
堀田 その日本人の恋人とは、どうなったんですか?
柳 結局、堀田君の考えたとおり。見つかっておばあちゃんに類が及ぶことを恐れて、その人は離れていってしまったらしいの。
堀田 そう、だったんですか。
柳 おばあちゃん、ずっと好きだって言ってた。けど、おじいちゃんのことも愛してたのよ?
堀田 ……。
柳 おじいちゃんは亡くなったけど、けっこう仲むつまじい二人だったんだから。
堀田 ……柳さん、俺、柳さんのこと、
田代 お待ちなさ〜い、ダーリ〜ン。
安永 何をするつもりだい、ハニ〜。
釘バットを持った田代が安永を追いながら入ってくる
二人はあくまでにこやかに会話を続ける
田代 女の敵よ〜、ダーリ〜ン。
安永 出来心じゃないか、ハニ〜。
堀田 お前何やったの。
安永 可愛いねって言った。
柳 それだけ?
安永 (堀田を抱きしめて)「可愛いね」って言った。
堀田・柳 ええええええ!
田代 覚悟しなさ〜い、ダーリ〜ン。
安永 まだ死ぬわけには行かないんだ、ハニ〜!
柳 犬も食わない。
堀田 え、やっぱりこの二人、そうなんですか?!
柳 2人にそのつもりがあるのかは知らないけど、外から見る限りそうじゃない?
田代 ちょっとふたりとも!
安永 なぁに内緒話してるんですか。
堀田 絡み酒かよ……。
田代 んふふー。さぁ堀田君?
堀田 なんです。
安永 んもう、いけずっ。
堀田 いけずって、マジ昭和だよ。安永うつってるよ。
田代 いーくーわーよー! 2軒目ぇ!
堀田 やめとけって。
安永 酔ってますかー!
田代 お酒があれがなんでもできる!
堀田 てゆーか釘バット持ってかないで! 危ないから!
安永、田代、堀田がはける
3人がはけたあと、反対側から藤沢が入ってくる
藤沢 それで? 結局2軒目に行ったわけ?
柳 そうなの。もう2人とも出来上がっちゃってるのに。
藤沢 楽しかった?
柳 楽しかったわ。
藤沢 よかったな。なんだ、俺の知らないところでそうやってみんな仲良くなってく。
柳 藤沢も来れたらよかったのに。
藤沢 忙しいんだって。
柳 なににそんなに忙しいの?
藤沢 内緒。
柳 感じ悪い。
藤沢 まあまだ秘密にさせてよ。時期が来たら必ず言うからさ。
柳 はいはい。楽しみにしてるわよ秘密主義者さん。
藤沢 美鈴……忘れてるかも知れないけど一応俺先輩だよ?