上海lovers
藤沢 「なんとでも。俺はこいつが気に入らない。なぁ春蘭。どうしてこんな日本人なんか飼っている?こいつらが俺たちに何をしたのか……お前は忘れてしまったのか?」
柳 「それは秀明のせいじゃないし、秀明本人が私たちに悪害を働いたわけじゃないわ!」
藤沢 「忘れるな春欄! こいつらは……人間じゃない。鬼だ」
堀田 あのー……。
藤沢 やあ、堀田君。
堀田 もういいですか?
柳 悪かったわね。
堀田 いえ……。びっくりしました。
田代 今日は遅かったね?
堀田 課題の消化が遅れまして……。
藤沢 安永は?
堀田 助教につかまりまして……。
田代 長引きそうな感じ?
堀田 長引きそうな感じ。
藤沢 永遠の1年生、安永光太郎……。
柳 ありそうで嫌ね。
田代 永遠の下僕、安永光太郎。
安永(裏から) 誰が下僕ですか。
4人 ……?
堀田 気のせい、か?
3人 ……。
藤沢 気のせい、だな。
堀田 それはそうと、新しいやつ持って来ました。
田代 やーるじゃん堀田!
堀田 すみません、一続きでかけなくって。
藤沢 いいんじゃないか? 様子見ながら書いて。時間がないわけじゃないんだし。
堀田 てゆーか俺でよかったんですか? ほんとに。
柳 いいにきまってるじゃない、私、あなたの脚本好きよ?
堀田 す、好きって、そんな、柳さん、
田代 あたしも好きよー! 好き好き大好き!
安永 そうですか。
安永が顔半分だけ出している
堀田 ……なにやってんだあんた。
安永 ずっといましたけど俺ここに。
藤沢 気づかなかった。
安永 誰が下僕ですか。
柳 聞いてたの?
安永 聞いてたの。
藤沢 てっきり空耳かと。
安永 どうせ俺なんてそんなもんですよ空気ですよいやそんな必要不可欠でもなければ誰かが俺を読んでくれるわけでもないってことは俺空気以下? ミジンコ? ミジンコ?!
田代 鬱陶しいわね独活の大木みたいなでかい図体しといてミジンコなんて騙ってんじゃないわよ失礼でしょミジンコに!
堀田 それは慰めてるんですか?
安永 すみませんでしたミジンコさん。
田代 あたしはミジンコじゃなーい!
安永 独活の大木って日常会話で使ってる人初めて見ましたミジンコさん。
田代 ミジンコじゃない。
藤沢 独活の大木か……通じないジェネレーションかもしれないな。
田代 そいつは驚きもも……。
堀田 驚き桃の木山椒の木って、俺らの親世代の子供時代の言い回しですからね寿々さん?
田代 堀田なんかきらぁい。
藤沢 いや、というか。
安永 好かれてなくてよかったな堀田!
田代 安永本ッ当にむかつく。
柳 あの、脚本家さんはお話があってきたわけでしょ?
堀田 そうだそうでした。
田代 なになにっ?
堀田 今後の展開だけでも伝えておこうかと思って。
藤沢 できたんだな? ストーリーが。
堀田 はい。秀明はこのまま自分が春蘭の元にいるのは、春蘭の迷惑になるんじゃないかって考えるんです。また脅しのネタにされないか、とか、実際に他の人に日本人ってばれてしまったら春蘭やお店の人、もちろん秀明自身もただじゃすまない。だから、秀明は春蘭から離れようとするんです。けれどそのとき、春蘭はひとり、秀明を守るために戦っていたんです。九龍と。
田代 こぶしで?!
安永 あほか。
堀田 取引をするんです、春蘭は。
藤沢 九龍のものになる代わりに、秀明を見逃せと?
堀田 そうなんです。
柳 なんだか、王道ね。
田代 もちろんそんなことをきくやつじゃない!
藤沢、柳、安永は、劇中劇の人物として動く
堀田 秀明は家を出て行こうとしていた。ところが、世話になったと挨拶をしたい春蘭がいない。
田代 遅くに帰ってきた春蘭。
堀田 秀明は春蘭に1冊の本を渡した。
田代 そこには一篇の小説。
堀田 春蘭を思いながら書いた、春蘭のためだけの小説だった。
田代 去っていくことを告げる秀明。
堀田 春蘭は、大丈夫だと、消えなくていいと……傍にいてほしいと、秀明に言う。
田代 自分と結ばれなくてもいい、けれど知らないところで危険な目にあってほしくない。
堀田 けれど、その春蘭の態度から秀明は悟ってしまうんだ。
田代 春蘭は、九龍のものになってしまったのだと。
堀田 そして九龍は秀明に非情な追い討ちをかける。
田代 自分が思う女の相手を許すはずがない。
堀田 それをいち早く察した春蘭。
田代 裏切りに怒りを覚えながらも、全力で秀明を逃がす春蘭。
堀田 全てをかけた逃避行の末、秀明と春蘭は逃げ切ることに成功するんだ。
田代 ……まって、二人は別れるの?
堀田 うーん。ここで二人が手と手を取り合って逃げるか?
田代 いえ、それとも泣く泣く別れるか?
堀田 悩んでるんだって。
藤沢 そうなのか。
柳 希望としては、逃げ切ってほしいな。ハッピーエンド。
安永 けど、ここで別れるのも切なくて捨てがたい。
田代 ってゆーか春蘭だけ九龍に連れ戻されるとかね。
堀田 ええええ。
安永 寿々って可愛げがないこと考えるな。
田代 そう? だって一番ありそうじゃない?
柳 それにしたって。
田代 あ、それともここでばったばったとなぎ倒す? 暗黒街のボスが春蘭に返り討ちにあって、引退! 代替わり!
藤沢 話のジャンルが変わりそう。
田代 あっ、それとも、そもそもの黒幕が春蘭だったりしてね! 春蘭の仕込んだ芝居!
安永 あなた本当に可愛くねー。
田代 なんでよ。いいじゃん可愛いじゃん、大好きな人を手に入れるために、わざと危機に陥れて颯爽と助けに行くのよ、策略よ、それで刷り込んじゃえばいいんだから! この女が救世主ってね!
安永 かっわいくねぇぇぇぇぇ!
田代 うるっさいな、どおぉぉっせあたしは可愛くないですよ可憐さも愛らしさも微塵もないですよ、それがどうしたこのすっとこどっこい!
安永 すっとこどっこい?! あんた今すっとこどっこいって言ったの?!
田代 何よ、あんたなんか大っ嫌いだもんね、ばーかばーか。
安永 小学生かよ。てゆーかすっとこどっこいって(半笑い)
田代 いいもん、いつか白馬の王子様が迎えに来てくれるんだから。
安永 すっとこどっこいって(完全にツボ)
田代 うるさい黙れこのうすらとんかち。
安永 うすらとんかちー!(さらにツボ)
藤沢 大丈夫だよ寿々。
田代 なにがよ。
藤沢 いつか現れるよ、寿々のその江戸っ子みたいな罵倒の言葉を可愛いと思ってくれる王子様が。
安永 すっとこどっこいは無理でしょ〜!
田代 安永本当にうるさい。
安永 だってすっとこどっこいって。あるよね、聞くだけでおもしろい単語って。
藤沢 それくらいにしとけよ、寿々の機嫌がリーマン破綻以来の世界経済並みに急降下してる。
堀田 あぁ、どうしてここに来ると全ての話が茶化されて終わるんだろう。
柳 ごめんなさいね。けど、私楽しみよ。早く続き書いてね。
堀田 は、はい。
田代 あたし帰る!