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空のくじら

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    分で理論を構築できるように。
青山  え。
宮古  ちょっといつまで休憩してんのよ、作業しなさい!
政子  はーい。
宮古  ……青山君?
青山  あぁ、これ飲んだら行きます。
宮古  なんかあったの?
青山  いや……あの。本当になんでもない話なんですけど。うちの大昔のご先祖様がタイムマシ
    ーンで未来に行ったって日記を残してて。
宮古  そうなの?!
青山  いや、俺は知らなかったんですけど。俺の家って昔から科学者とか機械工学系多いんです
    けど、その家系の人である女の人が、やっぱりタイムマシーンのこと書いてたんですよ。
    設計図っていうか、理論的根拠みたいなやつを。結局それは日の目を見ることなく埋もれ
    てたんですけど、俺、中学の頃に家でそれ発見して、それでこの道目指したんだよなぁっ
    て思い出して。
宮古  なによ、自分のルーツでも見つけたの?
青山  そうですね。本当のルーツを、この目で見たんだと思います。
宮古  あっそ、よくわかんないけど良かったわね。さぁ仕事仕事。あんたには給料払ってんだか
    らその分働いて。
青山  給料ったって未来に帰れなきゃ元も子も……。
宮古  だからこそかつかつ働く!
青山  はーい。

青山退場。

宮古  博士、こんなもの持って一体何しようとしてたんですか。

宮古、箱に薬をしまい鍵をかけ退出
(暗転・なくてもたぶんつなげる)






        男(片江)の後ろ姿
博士の回想。

博士  そうだ……君、名前は何といったかね。
片江  片江尚五郎兼輔。
博士  ……片江君は、元の時代に戻って何をするのかね。
片江  おまさに会います。
博士  この時代に来たことが、君にどんな意味をもたらした。
片江  ……おまさの、大切さを知りました。
博士  そんなにも、その女は君に大切だったのかね。
片江  おまさは、俺に孤独を教えたのです。
博士  ……孤独を。
片江  俺は人づきあいも不得手で、城内ではやや浮いた存在です。
博士  だろうな。
片江  そんな俺を、おまさは笑顔で迎えてくれた。俺の話を聞き、俺に話をし……対話のできる、
    数少ない人間なのです。
博士  ……そうか。
片江  おまさがいなければ、俺は、それまでの私がいかに孤独であったかを知ることはなかった。
博士  ……大切にしなければいけないな。
片江  博士殿に言われずとも。拙者の居場所がおまさの隣りであると、今は確信しているのです。
博士  そうか。もういい、あちらにいって休んでいなさい。ここでは君にできることなどなにも
    ない。
片江  かたじけない。

片江退出
半暗
博士が胸元から古い手紙を取り出す

博士  居場所……。
深雪  あなた。
博士  深雪。
深雪  どうしたの、らしくないわね。
博士  そんなことは自分が一番わかっている。
深雪  傍若無人で自分の好きなことしかやらないあなたが、今回は人の都合で動いているなんて。
博士  面白いか?
深雪  面白いし、うれしい。
博士  うれしい?
深雪  羨ましくなったの?
博士  羨ましいか……そうだな。いいや、少し違う。
深雪  そう。
博士  深雪、私の居場所は君の隣だったかね。
深雪  そうね、私の居場所があなたの隣であったように。
博士  長い、永い旅をしていたのだ。
深雪  旅?
博士  人と相いれないことが自分の唯一の証明だ。だがどこかで自分と似たものを探してもいた。
深雪  そう……その旅は、あなたに何をもたらしたかしら。
博士  深雪という理解者を。
深雪  あなた……。
博士  初めてだったよ。私の言葉を理解し、私と同じものを見て、同じ感想を抱く人間は。
深雪  あなたは、良くも悪くも天才だったものね。
博士  生まれた場所から遠く離れて一人旅した時間は、すべて君に会うためだったのだと思った
    のだ。
深雪  私も……そう思ったわ。
博士  あの男を、帰してやらねばなるまい。
深雪  あの人の人生に?
博士  そうだ。本来の居場所に。
深雪  そうね。
博士  深雪……私を馬鹿だと思うかね。
深雪  いいえ、思わないわ。
博士  この手の中にあるものが歴史を変えてしまう。
深雪  ……。
博士  自分でもどうするつもりかわからないのだよ。これを使いたいのか、それとも。
深雪  ……そうね。
博士  ……すまない。いよいよ私らしくないな。
深雪  あなた。……大丈夫、大丈夫よ。

深雪退場
宮古入ってくる

宮古  博士ー? なにぼさっとしてるんですかこんなところで。
博士  宮古君か。
宮古  なにか御不満でも? それより、青山君たちが呼んでますよ。機体の修理はおおむね終わ
    ったみたいなんですけど、設定とか。
博士  そうか。わかった。
宮古  博士……、あの。
博士  何かね。
宮古  ついこの前、歴史を変えるとかなんとかって話を。
博士  したな。
宮古  忘れてください。詮のないことを言いました。
博士  まぁ、そういうときもあるのだろう。
宮古  ……はい。
博士  最近、深雪のことを思い出す。
宮古  ……そうですか。
博士  片江君を、あの時代に帰してやらねばな。
宮古  まぁめずらしい。博士が他人のことを思っている!
博士  ……何をしている何を。
宮古  せっかくだから記録しとこうと思って。
博士  撮るなバカ者め。
宮古  貴重だからつい。
博士  まったく君という人は……。
宮古  でも、嬉しいです博士。
博士  ……は、
宮古  あの二人が羨ましくなったんですか?
博士  馬鹿を言うな馬鹿を。君の頭が悪いことを今更証明してほしいとは思わん。
宮古  素直じゃないんだからぁ。
博士  設定だと言ったな。
宮古  あ、逃げた!
博士  逃げてなどおらん! そもそも君が呼びに来たんだろう!
宮古  逃げてるー。

博士退場。

宮古  片江さんのおかげ、かな。それとも……深雪さん、私、やっぱり深雪さんにはかなわない
    なぁ。

博士の残した古い封筒を仕舞い、宮古退場。








        博士  諸君、分かっているとは思うがこれから諸君らが目にするのはまさに奇跡的瞬間というも
            のなのだ。
宮古  博士、わかったから早く定位置について。
博士  なんだこれくらい喋らせろ!
宮古  うるっさいのよ、ほら早く、片江さんも乗って。
片江  ……本当に帰れるのだろうか。
宮古  なにチキってんのよ。
片江  チキ?
宮古  チキンハート、ビビってるって意味よ。
片江  ……悪いことは言わん。そなた、その口を改めろ。
宮古  巨大なお世話よ。
博士  君も十分うるさい……。
宮古  都筑さん、外大丈夫?
政子 (裏から)大丈夫、人はいないわ。
宮古  オッケー、じゃあ十分距離をとって。巻き込むといけないから。
博士  青山君は。
宮古  あの子は博士と違って変なことしないから大丈夫よ。
博士  悪口か?
宮古  悪口よいちいちうるさいわね!
作品名:空のくじら 作家名:barisa