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空のくじら

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政子  だから、私は都筑政子だって。
片江  忘れてくれ、さっきの言葉は可及的速やかに忘れてくれぇ!
宮古  まぁ赤の他人に熱烈に告白しちゃったよーなもんだもんね……。
政子  ねぇあれってこれから修理するの?
博士  当然だ。我々はこの時代で生活するために来たのではない。
政子  手伝わせてくれない?
宮古  手伝う? あなたが?
政子  そう! 私こう見えても機械は専門なの! ね? いいでしょ?!
宮古  そうね、いいわ。
博士  君が決めるな!
宮古  もー博士のくせにうるさいわね、この博士!
博士  だから博士を悪口みたいに言うな!
宮古  お給料とか出せないけどいい?
博士  おーい。
政子  もちろん! 私が頼んだんだもの。
宮古  青山君が見つかるまでにも人手は必要でしょ? 博士のくせに文句言わないで。ちなみに
    あなた、組み立てとか修理とかは?
政子  大得意。
博士  おーい。
宮古  よーしこっちおいで。さっそく手伝ってもらうわ!

宮古と政子退場

博士  私は透明人間になる才能があるのだろうか……。それとも宮古君が自在に他人を透明にで
    きるのか……。だいたいあの都筑という女も……普通、もっと他に聞きたいことがあるん
    じゃ……むしろこちらが聞きたいくらいの……。いや、まあいい。君。
片江  俺か。
博士  他に誰がいると言うのかね。
片江  ……なんだ。
博士  我々は青木君を探すぞ。
片江  青山では。
博士  どちらでもかまわん。
片江  ……青山、不憫な。

博士と片江退場。
深雪が小さな封筒を持っている。
どこに隠そうかと思案する。

宮古  おじゃましまーす。あれ、何してるんですか?
深雪  しーっ!
宮古  え?
深雪  内緒なの、だから、静かにして。
宮古  博士今日は家にいるんですか?
深雪  いいえ、一人よ。
宮古  ……はぁ、そうですか。それなんですか? 手紙?
深雪  そうなの。
宮古  あのー、まさかとは思いますけど、ラブレター?
深雪  え、どうしてわかるの?
宮古  どうして分からないと思うんですか?
深雪  変ねぇ。
宮古  変ですよ。
深雪  ねえ、どこに隠したらいいと思う?
宮古  わざわざ隠すんですか? せっかくのラブレターなら普通に渡せばいいのに。
深雪  それじゃあつまんないじゃない。
宮古  そーですか。あなた方って本当似たもの夫婦ですよ、面白いとかつまらないとかで物事決
    めちゃう人種ですよ。
深雪  まぁ、似てるだなんて嬉しい。
宮古  褒めてませんからね?
深雪  そうなの?
宮古  ……隠し場所ですか? そうですね。このあたりはどうですか?
深雪  そうねぇ。でもすぐ見つかっちゃわないかしら。
宮古  ……じゃーいっそどっかの本の間とか鍵付きの箱の中とかに隠して、ヒントを小出しにし
    てみては?
深雪  鍵付きの箱……ヒントを小出し……宮古ちゃんあなたとっても良いことを言いました!
宮古  あ、そ、ですか。
深雪  となったら、さっそく鍵付きの箱〜。
宮古  ひとつ確認です。深雪さんの一番のときめきワード当ててもいいですか?
深雪  いいわよ。
宮古  この先危険立ち入り禁止。
深雪  大正解! どうして分かったの?
宮古  はははどうしてでしょうね!
深雪  ねぇこんな箱でどうかしら。
宮古  いいんじゃないですか?
深雪  そうよね、そう思うでしょ〜?
宮古  はいははは。
深雪  じゃあ、はい。(鍵を渡す)
宮古  ……はい?
深雪  せっかく鍵が二つあるから、あなたも一つ、持ってて。
宮古  はい……いやいやいやいや、意味わかりませんけど。
深雪  なくしちゃうといけないから。それに……
宮古  それに?
深雪  ううん、なんでもないの。じゃあ、さっそく隠し場所とヒントね〜。
宮古  あ、鍵も隠すんだ。
深雪  当然よ。
宮古  この鍵、大事に持ってまーす。
深雪  ありがと!
宮古  はぁ……。
深雪  ねえ宮古ちゃん。あの人の研究室に入るんでしょ?
宮古  はい。やっと許してもらえました。
深雪  あなたはずっと、あの人の傍にいてくれるのね。
宮古  はい? はぁ、まぁ今のとこ。
深雪  あの人をよろしくね。じゃ、隠してくるから!

深雪退場。
宮古、現代に戻る

政子  宮古さん、とりあえずコアの部分が無事だったので、損傷個所埋めて繋げば生き返りそう
    です……どうしました?
宮古  え? ああ、ありがとう。
政子  なんか良いこと思い出しました?
宮古  えっ?
政子  そんな顔してます。
宮古  おまさちゃんと同じ顔だけど、都筑さんの方がちょっと大人かな?
政子  もー、そのおまさちゃんトークやめてくださいよぉ。
宮古  片江さん?
政子  二言目にはおまさ、おまさって。この前なんてあたしに「旦那」って呼ばせようとしたの
    よ、信じられない。
宮古  大好きなのよ、許してやって。あたしたちのせいだしね。
政子  そんなに似てるのかなぁ。
宮古  うん、似てる。他人の空似にしては似すぎってくらい似てる。
政子  じゃあ他人じゃないのかも!
宮古  え?
政子  さっきなに思いだしてたんですか?
宮古  ……幸せだった頃の話。
政子  わぁ意味深! あれっ、もしかして宮古さんバツイチ?!
宮古  違うわよっ! 未婚です! どーせ未婚よ、結婚できない女なのよ!
政子  デリケートな問題に触ったみたいでごめんなさい。
宮古  その悪びれてないとこもまた良い味出してるわね。
政子  よく言われます。
宮古  あの箱……博士、見つけたのかな……。
博士  箱? 何のことだ。
宮古  なんでも。てゆーかいつからいたんですか。
博士  たった今だ。
宮古  あそ。青山君は見つかったんですか。
博士  修理は終わったのかね。
博士・宮古 ……まだ!
政子  でもコアが無事だからなんとかなりそう。あの金属じゃなきゃダメってことあります?
博士  いや、ない。あれは軽くて丈夫な割に安価だから使っているに過ぎない。
政子  じゃあ軽くて丈夫ならそれでオッケー?
博士  あとは元素の大きさだな。
政子  了解です。資料持ってくるんで、また良いのを検討しましょう。
博士  全く、青山君はどこで何をしているのかね。
宮古  さあ、裏で着替えてるんじゃないですか?
政子  何の話ですか?
宮古  大人の事情よ。
片江 (裏から)政子殿ー!
政子  ……はーいなんでしょう。
片江 (裏から)これ何だ、ここに載っているのは!
政子  ……(舌打ち)はーい、どれですかー?!(裏へ)
片江 (裏から)ほらこれだ、これ!
都筑 (裏から)これは東京タワー。あのさぁ、せっかくこの時代にきたならスカイツリーみたほ
    うが良いんじゃない?
宮古  あれはあれで気が合うんじゃない?
博士  しかし、良くないな。
宮古  連れてきちゃったこと?
博士  本来なら知るはずのないことだ。
宮古  歴史を変えるのは、怖いですか?
博士  怖い?
作品名:空のくじら 作家名:barisa