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天の卵~神さまのくれた赤ん坊~【前編】 Ⅱ

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「出歩きたいだなんて、女子高生じゃあるまいし、直輝さんったら、失礼ね」
「そんなことを言ったって、紗英子は知り合ったときから、全然変わってないじゃないか。見かけによらず、お喋りで賑やかで。俺は最初にお前を見た時、今時、珍しいくらい大人しくて控えめな子だと思ったんだ。こんな女の子らしい女の子って良いなって」
 当時の心境なんて、初めて聞かされる。紗英子はまるで自分も十代の昔の戻ったかのように頬を染めた。
「でも、ちょっと見には大人しいタイプに見えるけど、実はそうでもなくて内に強さと情熱を秘めた子だって、すぐに判ったけどな」
「何よ、それって、あまり褒められた気がしないんだけど?」
 紗英子が軽く睨むのに、直輝は愉快そうに声を上げて笑った。
「そうか? 俺は別にけなしてるつもりもないんだが。単に思ってることを言ってるだけだよ、まあ、褒め言葉と受け取って欲しいところだ」
「素直じゃないところ、直君は全然変わらないのね。褒めるのなら、素直に褒めてくれれば良いのに」
 と、紗英子も昔を思い出している中に、つい〝直君〟と当時の呼び方になっていた。結婚するまで、紗英子は直輝をそう呼んでいたからだ。
「そっか? どうやら、それは完全にけなされてるようだな」
 口ではそう言いながらも、直輝は特に気を悪くしている風はない。こうして話していると、まるで本当に十四歳の昔に戻ったかのようだ。
「俺からのプレゼントも開けてみてくれよ」
 促され、紗英子は頷いた。
「本当だ、ごめんね。お喋りに夢中になって」
 今なら、こんな風に素直に謝ることもできる。夫婦なんて、存外にこんなものかもしれない。たった一つのボタンの掛け違えだけで、着ている服が合わなくなってしまう。だけど、もつれた糸をそのままにしておいたら、どんどん絡まって、どうにかしようとしても解けなくなってしまう。
 やはり、面倒がらずに誤解や行き違いは取り返しがつく中にちゃんと説明し合ってなくしておかなければならないのだ。
 紗英子はリボンとラッピングを解き、オフホワイトの小さな紙箱を手にのせた。その箱にも同色の可愛らしいリボンがついている。そっと蓋を開けると、中から現れたのはイヤリングとネックレスのセットだった。鮮やかな緑の石がキャンドルの光を受けて煌めく。
「素敵」
 紗英子は思わず歓声を上げ、直輝の顔を見た。
「この石はエメラルドね?」
「ああ、よく判ったな」
「だって、五月生まれの誕生石だもの。直輝さん、だから選んでくれたんでしょ」
「うん、まあ、そういうことだな。お店の人に相談したんだよ。結婚記念日とクリスマスと両方兼ねたプレゼントがしたいんだって。そうしたら、誕生石は守護石でお守りにもなるから、これなんかどうですかって見せてくれたんで、即決。俺もひとめで気に入ったから」
 ネックレスは滴型で周囲をシルバーの縁が控えめに囲んでおり、イヤリングもそれとお揃いのデザインだ。シンプルだけれど、品が良くて可愛らしい。
「嬉しい、本当にありがとう」
 紗英子はイヤリングを耳に付け、ネックレスも首にかけようとした。しかし、なかなか上手くゆかない。
 直輝が苦笑して側に寄ってきた。
「相変わらず不器用なヤツだな、貸してみろよ」
 紗英子からネックレスを受け取り、直輝は紗英子の後ろに回った。紗英子は背中まである長い髪を纏め、うなじを見せる。
「じっとしてて」
 直輝の声が更に近づき、冷たいネックレスのチェーンが素肌に当たった。次いで、温かな手の感触が紗英子の首筋をつうっと撫でる。
「相変わらずだよな、お前のうなじって昔っから色っぽくて、そそられるんだ」
 直輝の息づかいがふいに荒くなり、次の瞬間、紗英子は背後から強く抱きしめられた。
「お前のうなじが色っぽいのに気づいたのが付き合い始めた夏だって告白したら、どうする?」
「中学二年の夏って、じゃあ、初めて二人だけでデートした、あの夏祭りのこと?」
「うん。紗英子が浴衣を着て、髪をアップにしてただろ。あの時、うなじが丸見えで、それが俺の眼に妙に色っぽく見えてさ。別に全体を見ても色っぽいなんて思わないのに、何でだか首筋を見ると、妙な気分になるんだ。この子はうなじでそそられるんだなって、思ったんだ」
「やあね。爽やかな笑顔を振りまいてたくせに、内心はそんなことを考えてたの。直輝さんって、その頃から、むっつり助平だったのね」
「むっつり助平、そりゃ、ないだろう」
 直輝の声が笑いを含んでいる。
 彼が笑う度に、熱い吐息がうなじにかかり、ゾクゾクとした震えが首筋から身体全体に走った。
 やがて直輝の手がゆっくりと動き、紗英子の胸のふくらみをセーター越しに包み込む。
「なあ、良いだろう?」
 その言葉が何を意味するのか、流石に判った。二日前のことがある。ここで拒絶すれば、もう後戻りはできない、二人の関係がのっぴきならない状況になるのは明らかだった。
 それに、今ならば、難しい理屈など関係なしに直輝に身を委ねても良いと思える。いや、何より誰より、紗英子自身が直輝に抱かれたいと切望していた。
「直君」
 昔のように少しだけ甘えて呼ぶと、直輝は即座に反応した。しばらく紗英子の胸をセーターの上からその感触を楽しむように揉んでいたかと思うと、もどかしげにセーターをたくし上げた。その下のスリップも乱暴に押しのけると、ブラジャーが現れる。彼は手慣れた様子でフォックをはずす。やがて、小柄な割にはふっくらとした乳房がまろび出て、直輝の息は更に荒くなった。
 直輝はそのまま紗英子を抱き上げ、寝室へと運んでゆく。ベッドに静かに降ろされた時、紗英子は甘い期待に身体が震えるのを感じた。
「―好きだよ、紗英子」
 直輝はいつも紗英子の身体中に触れながら、惜しみなく愛の言葉を囁くのを怠らなかった。本心もむろん混じっているのであろうが、その点はマメな男だ。
 直輝の手によって、セーターを脱がされ、すべてを剥ぎ取られてゆく。ベッドの下には脱ぎ棄てられたセーターや下着が散らばった。ブラ、ショーツ、スカートが放り投げられた。薄手のストッキングはもどかしいのか、直輝は一挙に引き裂いた。
「そのストックキング、高かったのよ」
 紗英子が訴えると、直輝が含み笑った。
「また同じものを買ってあげるから」
 紗英子は既に直輝の手によって全裸にされていた。
「やっと何も考えずに、昔のように愛し合えるんだね」
 熱っぽい視線が紗英子の身体中を這い回る。思えば、夫が自分の身体をこのように欲望も露わにして眺めるのはどれくらい久しぶりのことだろう。
「愛してる」
 直輝が紗英子の身体の中でもっとも色気を感じるといううなじから始まり、鎖骨、胸の谷間へと熱い彼の唇がゆっくりと降りてゆく。直輝は女体を愛撫するための時間を惜しまない。
 ゆっくりと丹念に焦らすことによって、彼は紗英子の身体中に火を点す。小さな無数の火をあちこちにつけて、ゆっくりとそれらを煽り、紗英子の中で眠る官能を高めてゆくのだ。
 彼の巧みな愛撫によって、紗英子の四肢のあらゆる感覚は高められ、やがてそれは極限にまで追い上げられてゆく。身体の隅々に点された小さな火はいつしか一つの大きな焔となって燃え盛る。
「うぅ、あぁ」