私に還る日
街路燈が無人の広場を照らす中を二人は歩いた。程なく元の何の変哲もない街並みになる。そのまま数百メートルほど進み大きなロータリーのある交差点を過ぎると、前方に駅が見えた。
「本当に、帰れるのね?」
暖野はマルカに確認した。
「ノンノが、本当に帰りたいのなら」
「ねえ、どうして全部私に振るのよ」
「だって、私はノンノの選択権を必要以上に侵すことはできないからです」
「……」
二人は駅前広場に出た。
「うそ……」
暖野は自分の目を疑わずにはいられなかった。
そこには、バスが停まっていたからだ。
見慣れた、いつもの循環バスだった。バスは、暖野が最初に降りたその場所に停まっていた。
このノスタルジックな光景に、近代的なそれはいかにも場違いに見えた。側面の歯科医院の公告もいつも以上によそよそしく思えた。
帰れるんだ――
暖野は思った。初めは疑心暗鬼だったものが、次第に現実味を帯びて彼女に実感させた。
「いいの?」
はやる気持ちを抑えて、暖野はマルカに向き直った。
マルカが頷く。
「待っていますよ」
「……」
暖野は再び、マルカの目を見つめた。「どうしても?」
マルカが再度頷く。
「でも――」
「大丈夫です」
暖野の言葉を遮ってマルカが手を差し出す。暖野がその手を握ると、マルカは力強く握り返してきた。
「さあ」
手を放すと、マルカは暖野を促した。いつまでもぐずぐずしている暖野の肩に、彼は優しく手を置いた。
それでようやく暖野はバスに向かって歩き出した。
「本当に、帰れるのね?」
暖野はマルカに確認した。
「ノンノが、本当に帰りたいのなら」
「ねえ、どうして全部私に振るのよ」
「だって、私はノンノの選択権を必要以上に侵すことはできないからです」
「……」
二人は駅前広場に出た。
「うそ……」
暖野は自分の目を疑わずにはいられなかった。
そこには、バスが停まっていたからだ。
見慣れた、いつもの循環バスだった。バスは、暖野が最初に降りたその場所に停まっていた。
このノスタルジックな光景に、近代的なそれはいかにも場違いに見えた。側面の歯科医院の公告もいつも以上によそよそしく思えた。
帰れるんだ――
暖野は思った。初めは疑心暗鬼だったものが、次第に現実味を帯びて彼女に実感させた。
「いいの?」
はやる気持ちを抑えて、暖野はマルカに向き直った。
マルカが頷く。
「待っていますよ」
「……」
暖野は再び、マルカの目を見つめた。「どうしても?」
マルカが再度頷く。
「でも――」
「大丈夫です」
暖野の言葉を遮ってマルカが手を差し出す。暖野がその手を握ると、マルカは力強く握り返してきた。
「さあ」
手を放すと、マルカは暖野を促した。いつまでもぐずぐずしている暖野の肩に、彼は優しく手を置いた。
それでようやく暖野はバスに向かって歩き出した。