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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 街路燈が無人の広場を照らす中を二人は歩いた。程なく元の何の変哲もない街並みになる。そのまま数百メートルほど進み大きなロータリーのある交差点を過ぎると、前方に駅が見えた。
「本当に、帰れるのね?」
 暖野はマルカに確認した。
「ノンノが、本当に帰りたいのなら」
「ねえ、どうして全部私に振るのよ」
「だって、私はノンノの選択権を必要以上に侵すことはできないからです」
「……」
 二人は駅前広場に出た。
「うそ……」
 暖野は自分の目を疑わずにはいられなかった。
 そこには、バスが停まっていたからだ。
 見慣れた、いつもの循環バスだった。バスは、暖野が最初に降りたその場所に停まっていた。
 このノスタルジックな光景に、近代的なそれはいかにも場違いに見えた。側面の歯科医院の公告もいつも以上によそよそしく思えた。
 帰れるんだ――
 暖野は思った。初めは疑心暗鬼だったものが、次第に現実味を帯びて彼女に実感させた。
「いいの?」
 はやる気持ちを抑えて、暖野はマルカに向き直った。
 マルカが頷く。
「待っていますよ」
「……」
 暖野は再び、マルカの目を見つめた。「どうしても?」
 マルカが再度頷く。
「でも――」
「大丈夫です」
 暖野の言葉を遮ってマルカが手を差し出す。暖野がその手を握ると、マルカは力強く握り返してきた。
「さあ」
 手を放すと、マルカは暖野を促した。いつまでもぐずぐずしている暖野の肩に、彼は優しく手を置いた。
 それでようやく暖野はバスに向かって歩き出した。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏