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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 今になって名残惜しくなるなんてね――
 暖野は苦笑した。だが正確に言うと、暖野は心配だったのだ。腹立たしくもあったが、ほんの少しの間でも自分を案内してくれたマルカの身が。もし彼がいなかったならば、自分がどうなっていたかさえ分からないのだ。この消えゆく世界に彼一人を残して去るのは、やはり気の重いことだった。
 後ろ髪を引かれる思いで乗車口のステップに足をかける。それと同時にバスのエンジンがかかった。
 ステップを昇りきるのを見計らったようにブザーが鳴って扉が閉まった。
 暖野は胸の前で小さく手を振った。
 途端にバスが大きく揺れて動き出し、危うく暖野は倒れそうになった。
 マルカは広場に立ち、いつまでも暖野の方を見つめていた。暖野はそれが小さくなって見えなくなるまで通路に立っていた。
 座席に身を落ち着けると眠気が襲ってきた。しばらく彼女は見るともなしに外を眺めていたが、やがて眠りに落ちていった。
 彼女の座ったのは、奇しくもここへ来るときに座っていたのと同じ場所だった。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏