私に還る日
二人は川沿いに設けられた階段を下りた。そこも小さな公園になっており、遊歩道が延びている。街路燈の光が川面に照り返されて、なんともロマンティックな雰囲気を醸し出している。
こういう所を恋人と一緒に歩けたら、と暖野はふと思った。
それは決して叶わぬことだとは彼女も解っている。ここは現実の世界ではないのだし、それより何より未だ男友達もいないのだから。
今は道幅もあるせいで二人は並んで歩いてはいたが、互いに顔を見るでもなく手をつなぐでもなく、当然ながら必要なだけ離れていた。
それにしても、暖野は不思議にもマルカに対して全く警戒心を抱かなかった。だからといって、それ以上の感情も持たなかったが。
遊歩道は河に沿ってどこまでも続いているかに見えた。河はわずかに左へカーブしており、先が見えないせいもあった。
「ここから、どこへ行くの?」
暖野は訊いた。
「どこだと思いますか」
普通このような言い方をされるとふざけているのではないかと思うところだが、マルカの存在と口調に慣れてきたのか、彼女はもうそんな気持ちにはならなかった。
「分からないわ」
暖野は答えた。
「ノンノが帰れる可能性が最もある場所――」
「駅?」
それしか思い浮かばない。ここから直接帰れてもいいようなものだが、いくら何でもそう虫のいいことは起こらないだろう。だとすれば、最初に沙里葉に着いた場所、駅しかなかった。
「じゃあ、駅へ行きましょう」
何よそれ。まるで私が決めたみたいじゃないの――
マルカの言葉に、暖野は思った。
それでも目的がないよりはましというものだ。
「でも、このまま行って駅に着くの?」
いつまでも川べりを歩いていても、駅とは見当違いの方角になってしまう。
「もう少しここを歩きましょう。ノンノもこういう所は嫌ではないでしょう」
暖野は先ほどの思いを見透かされているように感じた。そう、彼女はこういった雰囲気が好きだった。それに、単調な街路を行くよりは、いくらか変化があった方が気が紛れるというものだ。
こういう所を恋人と一緒に歩けたら、と暖野はふと思った。
それは決して叶わぬことだとは彼女も解っている。ここは現実の世界ではないのだし、それより何より未だ男友達もいないのだから。
今は道幅もあるせいで二人は並んで歩いてはいたが、互いに顔を見るでもなく手をつなぐでもなく、当然ながら必要なだけ離れていた。
それにしても、暖野は不思議にもマルカに対して全く警戒心を抱かなかった。だからといって、それ以上の感情も持たなかったが。
遊歩道は河に沿ってどこまでも続いているかに見えた。河はわずかに左へカーブしており、先が見えないせいもあった。
「ここから、どこへ行くの?」
暖野は訊いた。
「どこだと思いますか」
普通このような言い方をされるとふざけているのではないかと思うところだが、マルカの存在と口調に慣れてきたのか、彼女はもうそんな気持ちにはならなかった。
「分からないわ」
暖野は答えた。
「ノンノが帰れる可能性が最もある場所――」
「駅?」
それしか思い浮かばない。ここから直接帰れてもいいようなものだが、いくら何でもそう虫のいいことは起こらないだろう。だとすれば、最初に沙里葉に着いた場所、駅しかなかった。
「じゃあ、駅へ行きましょう」
何よそれ。まるで私が決めたみたいじゃないの――
マルカの言葉に、暖野は思った。
それでも目的がないよりはましというものだ。
「でも、このまま行って駅に着くの?」
いつまでも川べりを歩いていても、駅とは見当違いの方角になってしまう。
「もう少しここを歩きましょう。ノンノもこういう所は嫌ではないでしょう」
暖野は先ほどの思いを見透かされているように感じた。そう、彼女はこういった雰囲気が好きだった。それに、単調な街路を行くよりは、いくらか変化があった方が気が紛れるというものだ。