私に還る日
言葉が途切れると森の中は静寂に包まれ、二人の路面を踏む微かな音だけが辺りを支配した。
「え?」
何の気もなく後ろをふり返った暖野は、思わず声を上げた。
道がなくなっているのだ。つい今しがた通ってきた道が、暖野の数メートル後ろで忽然と消えていた。石畳の道が跡形もなく周りの森の中に融けてなくなっているのだった。ただ暗いというだけではない。道を照らす灯りさえもがなくなっていた。
「道が……」
暖野はマルカに向かって言った。
「この道は、はじめから存在していなかったのです」
マルカは平然として言った。「私たちがこの世界の意識に会うために、特別にあつらえられたものなのですから」
「じゃあ、あの家も……」
「ええ。でも半分はノンノ自身が創り上げたイメージによって成り立っていたのですよ」
「私、あそこに何があるのかも知らなかったのに?」
「行く先に何があるのか、何が待っているのかという期待とでもいいましょうか」
「博士も?」
まさか、アゲハや彼から聞かされた話さえも、暖野が期待したとおりのものだったと言うのだろうか。
「全てがそうなのではありません。ただ、人は概ね自分の想像したようにものを見るということです」
相変わらず訳の分からない言い方を、マルカはした。
だとすれば、自分がイメージしさえすれば、消えることはないということなのだろうかと、暖野は道があったはずの森の闇を凝視した。
今まであったものが消えるなんて――
それはある意味で時間を象徴しているようでもあった。今の現実は、一瞬後には過去になってしまう。過去はそれがたとえどれだけ近いものであっても、決して近づくことはできないのだから。今は、あくまでも今でしかないのだ。
「え?」
何の気もなく後ろをふり返った暖野は、思わず声を上げた。
道がなくなっているのだ。つい今しがた通ってきた道が、暖野の数メートル後ろで忽然と消えていた。石畳の道が跡形もなく周りの森の中に融けてなくなっているのだった。ただ暗いというだけではない。道を照らす灯りさえもがなくなっていた。
「道が……」
暖野はマルカに向かって言った。
「この道は、はじめから存在していなかったのです」
マルカは平然として言った。「私たちがこの世界の意識に会うために、特別にあつらえられたものなのですから」
「じゃあ、あの家も……」
「ええ。でも半分はノンノ自身が創り上げたイメージによって成り立っていたのですよ」
「私、あそこに何があるのかも知らなかったのに?」
「行く先に何があるのか、何が待っているのかという期待とでもいいましょうか」
「博士も?」
まさか、アゲハや彼から聞かされた話さえも、暖野が期待したとおりのものだったと言うのだろうか。
「全てがそうなのではありません。ただ、人は概ね自分の想像したようにものを見るということです」
相変わらず訳の分からない言い方を、マルカはした。
だとすれば、自分がイメージしさえすれば、消えることはないということなのだろうかと、暖野は道があったはずの森の闇を凝視した。
今まであったものが消えるなんて――
それはある意味で時間を象徴しているようでもあった。今の現実は、一瞬後には過去になってしまう。過去はそれがたとえどれだけ近いものであっても、決して近づくことはできないのだから。今は、あくまでも今でしかないのだ。