私に還る日
二人はしばらく黙って歩いた。暖野としては訊きたいことが山ほどあったが、どれをどう訊いていいのかすら分からない状態だったからだ。だが、暖野はふとあることに思い当たった。
「ねえ、この世界はなくなってしまうんでしょう? だったら、私はこのままここにいていいの?」
そうなのだ。まさか世界の消滅の目撃者になれというわけでもあるまい。それに、世界がなくなるということは、とりもなおさずそこにいるものもなくなるということになる。
「ですから、ノンノは一旦ここから出ることになるでしょう。べつにいてもらっても問題はないのですが、その方が気持ちの上でも楽でしょうし」
「帰れるのね?」
暖野はその言葉を聞いて安堵した。アゲハの話では、何かしなければ帰れないような感じだったからだ。
だが――
「ちょっと待ってよ――」
暖野はあることに気づいた。「だったら、あなたも消えてしまうんじゃないの?」
「私ですか?」
マルカが意外そうに訊く。そして安心させるように幾分柔らかな表情になって言った。「私は大丈夫ですよ」
「じゃあ、あの人は?」
「博士は、いわばこの世界そのものの最後の意識なのです。ですから……」
マルカが言葉を濁す。
やはりあのアゲハ博士はこの世界と共に消えてしまうのだ。
暖野の沈痛な思いを励ますようにマルカが明るく言う。
「でも私は、ノンノとのつながりにおいて世界を共有しています。だから私は半ばノンノの想念の中に存在していることになるのです」
「私、あなたに会うのは――」
「分かっています。初めてだと言うのでしょう」
「え……ええ」
「でも、私はノンノを知っています。今は、これでいいでしょう」
どうせ訊いても答えてはくれまい。暖野はそれ以上、このことについて突っ込むのはやめた。
「ねえ、この世界はなくなってしまうんでしょう? だったら、私はこのままここにいていいの?」
そうなのだ。まさか世界の消滅の目撃者になれというわけでもあるまい。それに、世界がなくなるということは、とりもなおさずそこにいるものもなくなるということになる。
「ですから、ノンノは一旦ここから出ることになるでしょう。べつにいてもらっても問題はないのですが、その方が気持ちの上でも楽でしょうし」
「帰れるのね?」
暖野はその言葉を聞いて安堵した。アゲハの話では、何かしなければ帰れないような感じだったからだ。
だが――
「ちょっと待ってよ――」
暖野はあることに気づいた。「だったら、あなたも消えてしまうんじゃないの?」
「私ですか?」
マルカが意外そうに訊く。そして安心させるように幾分柔らかな表情になって言った。「私は大丈夫ですよ」
「じゃあ、あの人は?」
「博士は、いわばこの世界そのものの最後の意識なのです。ですから……」
マルカが言葉を濁す。
やはりあのアゲハ博士はこの世界と共に消えてしまうのだ。
暖野の沈痛な思いを励ますようにマルカが明るく言う。
「でも私は、ノンノとのつながりにおいて世界を共有しています。だから私は半ばノンノの想念の中に存在していることになるのです」
「私、あなたに会うのは――」
「分かっています。初めてだと言うのでしょう」
「え……ええ」
「でも、私はノンノを知っています。今は、これでいいでしょう」
どうせ訊いても答えてはくれまい。暖野はそれ以上、このことについて突っ込むのはやめた。