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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 確かに、星は頭上にあるものだ。足元になどあるはずがない。本当にそうなのだろうか?
しかし、この踏みしめている大地も星ではないのか。と、そこであることに気づいた。地球は丸いということに。だとしたら、マルカの言う通りに地面を反対側に突き抜けた先にも星があることになる。
「周り全部に星があるってことね。上にも下にも、それから全部の方向にも」
 マルカが頷く。
「上や下の概念は、存在が造るものだと博士が言っていました」
 まあ、それも理解できないことではなかった。造るとかどうとかは別としても、上下は何かを基準にして捉えるしかないからだ。その基準を持たないものには上下など意味がない。
「その辺は何となく解った気がする」
 暖野は言った。「でも、さっきあの人は時間を遡ったかたちで世界が喪われるって言ってたけど、それは時間が逆行してるってことなの?」
「違います。ここを取り巻く時間の概念――まあ、あなたの現実世界においてもそうですが――それが非常に複雑だから、そう言ったのでしょう」
「本当は、どうなの?」
「はっきりしたことは解りません」
 マルカが言う。「でも、私は、そうですね――例えば、時間が一直線のものだと仮定しましょう。ここでは縦軸として上へと過ぎてゆくもののします。でも、ここは途中から横へと分かれた世界なのです。その意味は判りますね」
「要するに、縦軸から見れば、位置は変わらないということ?」
「そうです。だから正確には時間が逆行しているのではなくて、方向こそ違っても一応は進んでいるのです。もしそうでなければ、ノンノのその時計も停まっているはずでしょう?」
 暖野は時計を見た。それはマルカに言われるまでもなく、確実に時を刻んでいた。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏