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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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「では、私は具体的に何をすればいいんですか?」
「ここで経験した全てを心に留めておいてほしい。そして、それを元に想像するのだ」
「想像……する?」
「そうだ。思い出してほしい。ここが、人々の思いによって成り立っていたことを。そして、この世界には最初の軸――種子となる思いが存在していたということを」
「思い……」
「その通り。思いは想像することと同意義であることもあるし、想像の種子を指すこともある」
「……それだけですか? 私がここで見たことを元に想像するだけで……」
「思いは創造を導く。人はそれを、伝説と呼ぶこともある」
「よく分かりません」
「伝説は世を育み、人を想像へと駆り立てる。その最初の種子に、君はなるのだ。君は伝説になるのだよ」
「私が? 伝説にですって?」
 さすがにこれは、いくら何でも大げさに過ぎる。ただの一介の高校生がバスで訳の分からないところへ連れてこられて、あげくに伝説になってほしいなどとは。
「それほど驚くことはない」
 アゲハは至極当然のことのように言った。
「それは今すぐのことではない。君には自覚はなくとも、いずれそうなる。伝説とはその本人が自分で伝えるものではないからだ」
 まあ、それはそうだろうと暖野も思った。
「私は、想像するだけでいいんですか?」
 暖野の言葉に、アゲハが深く頷く。
「そうすることで、あとは何をすればいいか自ずと判ってくるだろう」
 そこまで言って、アゲハは初めて暖野から視線を外して遠くを見やった。
「ごらん」
 机の背後の大窓の方を向き、アゲハが言う。「間もなく、月が昇る」
 窓の外は、ほとんど漆黒の闇だった。遠くの山が仄明るい光で縁取られていた。
 暖野はその稜線を見つめた。
 部屋に沈黙が訪れた。三人はいずれも口を開くことなく、じっと窓の方を見つめていた。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏