私に還る日
「君は、そのことについてはもう充分に考えてきたはずだ」
アゲハが言う。
「私……」
「疑いは、とりあえず保留しておいてほしい」
暖野の言葉をアゲハが遮る。「私に残された時間は限られている。君に伝えるべきことを伝えられないままでは、悔いが残ってしまう。そのようなものでも残ればということにはなるが」
アゲハは寂しげに微笑した。
「じゃあ、あなたも……」
「私がいなくなっても、そこのマルカがいる。とにかく今は、私の話を聴いておくれ」
「分かりました」
嘆願するようにアゲハが言うのに、暖野は頷いた。「続けてください」
アゲハが頷き返す。
「君の言ったとおり、時間と空間は一体のものだ。時間の流れが一定でないのは、君も知っているね。――実際の川と同じように、時間の流れにも緩慢がある。そしてその流れにも本流となるものがある。これが実際に君たちが関知できる時間というものだ。しかし、本流があるということは、支流や、本来の流れから取り残されたものもあるということだ。つまり、何らかの理由で本流から逸れてしまった流れだ。
実際の川が本流から取り残されてしまった場合、どうなるかは分かるだろう」
暖野が頷く。家の近くの川に、そう言う場所があった。大抵は澱み、次に増水するまで取り残されたままだ。さもなければ、干上がってしまうまでのことだった。
「時間流にも、君の思っているような奔流が存在する。ただそれは、エネルギーの増大によるものだがね。
そして、再び適当な状態に静まると、後にはさっき言ったような支流――分流と言った方が適切かも知れないが、そのようなものが残る。辛うじて本流と繋がっている間はまだいいが、完全に分離されてしまえば適当な時期にまたエネルギーの増大がなければ涸れて消えてしまう。
ここはまさに、そういう状況なのだよ」
「それで、私を呼んだんですか?」
「そうだ、と言っていいだろう。君は、ここの分断された時間流を本流に繋ぐことができる唯一の存在なのだ。もっと上手く説明できればよいが、そう言った方が、君にも理解しやすいだろう」
確かに、時間を川にたとえた説明は理解できた。だが時間を繋ぐというのがどういうことなのかは、想像すらできなかった。
アゲハが言う。
「私……」
「疑いは、とりあえず保留しておいてほしい」
暖野の言葉をアゲハが遮る。「私に残された時間は限られている。君に伝えるべきことを伝えられないままでは、悔いが残ってしまう。そのようなものでも残ればということにはなるが」
アゲハは寂しげに微笑した。
「じゃあ、あなたも……」
「私がいなくなっても、そこのマルカがいる。とにかく今は、私の話を聴いておくれ」
「分かりました」
嘆願するようにアゲハが言うのに、暖野は頷いた。「続けてください」
アゲハが頷き返す。
「君の言ったとおり、時間と空間は一体のものだ。時間の流れが一定でないのは、君も知っているね。――実際の川と同じように、時間の流れにも緩慢がある。そしてその流れにも本流となるものがある。これが実際に君たちが関知できる時間というものだ。しかし、本流があるということは、支流や、本来の流れから取り残されたものもあるということだ。つまり、何らかの理由で本流から逸れてしまった流れだ。
実際の川が本流から取り残されてしまった場合、どうなるかは分かるだろう」
暖野が頷く。家の近くの川に、そう言う場所があった。大抵は澱み、次に増水するまで取り残されたままだ。さもなければ、干上がってしまうまでのことだった。
「時間流にも、君の思っているような奔流が存在する。ただそれは、エネルギーの増大によるものだがね。
そして、再び適当な状態に静まると、後にはさっき言ったような支流――分流と言った方が適切かも知れないが、そのようなものが残る。辛うじて本流と繋がっている間はまだいいが、完全に分離されてしまえば適当な時期にまたエネルギーの増大がなければ涸れて消えてしまう。
ここはまさに、そういう状況なのだよ」
「それで、私を呼んだんですか?」
「そうだ、と言っていいだろう。君は、ここの分断された時間流を本流に繋ぐことができる唯一の存在なのだ。もっと上手く説明できればよいが、そう言った方が、君にも理解しやすいだろう」
確かに、時間を川にたとえた説明は理解できた。だが時間を繋ぐというのがどういうことなのかは、想像すらできなかった。