私に還る日
「確かに」
アゲハが言う。「ここは存在している。少なくとも、しばらくの間は。だが、時が動き始めた以上、そう長くは存在してはいられないだろう」
「この時計が、動き始めたから、ということですか?」
「そうだ」
「じゃあ――」
暖野は混乱し始めていた。いろいろなことが一時に脳裏を駆け巡る。「ここは消えてなくなると……。そして――それは私のせいだと……?」
だから、私に責任を取れということなのかしら――
出かかった言葉を、さすがにそれだけは飲み込んだ。口調がどうしても喧嘩腰になってしまいそうだったからだ。
「君のせいではない。それに、時計が動き出したのも、ここがもう消滅の秒読み段階に入ってしまったことも、もちろん君には何の責任もない」
「なら、どうして――?」
言いつのる暖野を、アゲハが制する。
「君にしか出来ないからだ。他の誰でもない、君にしか」
「あなたは、何か勘違いしてますよ。私は救世主なんかじゃありません」
ファンタジーの類も彼女はよく読むし、好きな方だ。だが、そういうことはあくまでも“お話”だから面白いのだ。
「そうだとも。君は救世主じゃない」
そして、アゲハの次の言葉が、彼女をさらに混乱させた。「なぜなら、君が救うのは、ある意味では君自身なのだから」
「……?」
暖野は、彼が何を言っているのか理解できなかった。
私が、自分自身を救う――?
どうして、そんなことをしなければいけないの――?
私は、ここから抜け出すことができさえすれば、何も言うことはないのに――
「君は、沙里葉を見てきたと思うが」
暖野の混乱をよそに、アゲハが言った。
「サリハ?」
「さっき通ってきた街の名前です」
視線を戻して問い返す暖野に、マルカが説明した。
アゲハが続ける。
「あの街は、以前は多くの人達で賑わっていた。この世界で最初に出来た街であり、そして最後に残った街でもあった。そして今、残された唯一の街、沙里葉さえもが消えようとしているのだ。時間的な系列はいささか不問にさせてもらうと、そういうことになる」
アゲハが言う。「ここは存在している。少なくとも、しばらくの間は。だが、時が動き始めた以上、そう長くは存在してはいられないだろう」
「この時計が、動き始めたから、ということですか?」
「そうだ」
「じゃあ――」
暖野は混乱し始めていた。いろいろなことが一時に脳裏を駆け巡る。「ここは消えてなくなると……。そして――それは私のせいだと……?」
だから、私に責任を取れということなのかしら――
出かかった言葉を、さすがにそれだけは飲み込んだ。口調がどうしても喧嘩腰になってしまいそうだったからだ。
「君のせいではない。それに、時計が動き出したのも、ここがもう消滅の秒読み段階に入ってしまったことも、もちろん君には何の責任もない」
「なら、どうして――?」
言いつのる暖野を、アゲハが制する。
「君にしか出来ないからだ。他の誰でもない、君にしか」
「あなたは、何か勘違いしてますよ。私は救世主なんかじゃありません」
ファンタジーの類も彼女はよく読むし、好きな方だ。だが、そういうことはあくまでも“お話”だから面白いのだ。
「そうだとも。君は救世主じゃない」
そして、アゲハの次の言葉が、彼女をさらに混乱させた。「なぜなら、君が救うのは、ある意味では君自身なのだから」
「……?」
暖野は、彼が何を言っているのか理解できなかった。
私が、自分自身を救う――?
どうして、そんなことをしなければいけないの――?
私は、ここから抜け出すことができさえすれば、何も言うことはないのに――
「君は、沙里葉を見てきたと思うが」
暖野の混乱をよそに、アゲハが言った。
「サリハ?」
「さっき通ってきた街の名前です」
視線を戻して問い返す暖野に、マルカが説明した。
アゲハが続ける。
「あの街は、以前は多くの人達で賑わっていた。この世界で最初に出来た街であり、そして最後に残った街でもあった。そして今、残された唯一の街、沙里葉さえもが消えようとしているのだ。時間的な系列はいささか不問にさせてもらうと、そういうことになる」