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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 この時間帯、駅へと向かうバスは回送同然だ。宏美は駅とは逆方向にある団地住まいだが、二人の乗るバスは同じ系統だ。そもそもが私鉄の駅と、この近辺に散在する新興住宅地を巡る循環バスなのだ。一部団地止まりのものもあるが、ほとんどはどちら向きのバスに乗っても同じ駅に着く。暖野が宏美と同じ方へ向かうバスに乗らないのは、単にそれが遠回りになるという理由からだった。
 次の停留所の案内が車内に虚しく響く。駅への道は渋滞もなく、バスは遅れを取り戻すかのようにノンストップで走り続けた。
 しかし、暖野はそんなことなどどうでもよかった。帰りに駅までの間、自分一人だけだということなど珍しくもなかったからだ。
 暖野が今、気にかけているのは、先日親戚の時計屋に預けた時計のことである。
 買い物のために宏美と待ち合わせた店でその時計を見つけたのは、ちょうど一週間前のことだった。

作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏