私に還る日
5 博士
少し先で、道は急角度で左に曲がっていた。それを曲がりきったところで道は途切れていた。いや、そうではない。暖野には最初そう見えたのだが、実際には大きな門によって道がふさがれていたのだった。塀や門にも蔦が這い、一見しただけでは周囲の森と変わりがないように見える。両側の門柱の間にはアーチが掛け渡してあったが、そこにも蔓が絡まっていた。
それでも門を見分けられたのは、両側の門柱の上に小さな灯りが点いていたからだ。そうでなければ、門の存在すら判らなかっただろう。
マルカは暖野の方を向いて微かに頷くと、その門を押しやった。
彼はまず暖野を先に通し、自分は後から入って門を元通りに閉ざした。
敷地内も、これまでの道のりと大差なかった。いや、それ以上に酷いありさまだった。石畳の小径が奥へと続いているが、頭上に張り出した枝からは蔓が到るところで垂れ下がり、足元では丈の低い藪が時折完全に道をふさいでいた。石畳もあちこちで剥がれていて、草が伸びている。ここを歩くには頭上だけでなく、足元にも気を配らなければならなかった。
だが暖野は足元だけに注意していればよかった。マルカが大きな障害物を彼女のためにいちいち除けてくれたからだ。
元はれっきとした庭だったのだろうが、今は手入れする人もなく荒れるに任せている、そんな感じだった。