私に還る日
森の中は決して真っ暗というわけではなかった。石畳の道の所々に質素ながら灯りが点されていたからだ。黒っぽい石畳がその光を受けて、濡れたように光っている。頭上には樹々の枝が被さり、空はほとんど見えない。
一人きりではないとはいえ、夜の森はあまり気持ちのいいものではない。
マルカはまるでそのようなことなど気にもとめていないようで、その足取りに変わりはなかった。
道は、それと分かる程度の登りになっていた。きっと、丘の上へと続いているのだろう。ただ、どれほどの高さがあるのかは分からないが。
こんなに歩かなきゃいけないのなら、あのロータリーの所で降ろしてくれればよかったのに――
暖野は思った。彼女をここへ連れてきたバスのことである。それとも、駅行きだから、ここでも律儀に駅前に停まったのだろうか、と。
それもまた、滑稽な話だった。
「ねえ、どこまで歩くの?」
暖野は、先を行くマルカに訊いてみた。
「もうすぐですよ。ここまで来てしまえばね」
マルカが振り向いて微笑む。
どんな所へ連れて行かれるのかは判らないが、暖野は幾分ほっとした気分になった。いい加減、歩くのに嫌気がさしていたからだ。それに、初めてマルカの肯定的な表情を見られたことは、彼女の不安をかなり和らげた。
彼女はワンゲル部員として日々の練習はしているし、基礎体力もそこそこあると自認している。しかし調子の悪いときというのはあるもので、今日がまさしくそうだった。それに、暖野は体調以上に、精神的にもひどくくたびれていたのだった。
道はある程度の勾配で、かなり長く続いた。決して急ではなかったが、目的地の見えない長い登りは辛いものだ。道の両側には完全な闇が広がり、灯りのある辺りだけが蔦の絡まる鬱蒼とした森を浮かび上がらせていた。
もうすぐと言いつつ、マルカは立ち止まる様子もない。二人が足を止めるのは、それから10分ほど後、森に入ってから半時間は経ってからだった。
一人きりではないとはいえ、夜の森はあまり気持ちのいいものではない。
マルカはまるでそのようなことなど気にもとめていないようで、その足取りに変わりはなかった。
道は、それと分かる程度の登りになっていた。きっと、丘の上へと続いているのだろう。ただ、どれほどの高さがあるのかは分からないが。
こんなに歩かなきゃいけないのなら、あのロータリーの所で降ろしてくれればよかったのに――
暖野は思った。彼女をここへ連れてきたバスのことである。それとも、駅行きだから、ここでも律儀に駅前に停まったのだろうか、と。
それもまた、滑稽な話だった。
「ねえ、どこまで歩くの?」
暖野は、先を行くマルカに訊いてみた。
「もうすぐですよ。ここまで来てしまえばね」
マルカが振り向いて微笑む。
どんな所へ連れて行かれるのかは判らないが、暖野は幾分ほっとした気分になった。いい加減、歩くのに嫌気がさしていたからだ。それに、初めてマルカの肯定的な表情を見られたことは、彼女の不安をかなり和らげた。
彼女はワンゲル部員として日々の練習はしているし、基礎体力もそこそこあると自認している。しかし調子の悪いときというのはあるもので、今日がまさしくそうだった。それに、暖野は体調以上に、精神的にもひどくくたびれていたのだった。
道はある程度の勾配で、かなり長く続いた。決して急ではなかったが、目的地の見えない長い登りは辛いものだ。道の両側には完全な闇が広がり、灯りのある辺りだけが蔦の絡まる鬱蒼とした森を浮かび上がらせていた。
もうすぐと言いつつ、マルカは立ち止まる様子もない。二人が足を止めるのは、それから10分ほど後、森に入ってから半時間は経ってからだった。