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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 やがて、街路は唐突に終わった。いや、正確には小さなロータリーがT字路をなしている交差点に出たのだった。今まで歩いてきた道の先は森で、そこから先はなかった。電車の線路は道と同じようにそこで二手に分かれ、さらにどこかへと延びていた。ロータリーの中央には、駅前のそれとは違って誰かの石像が建っていた。
 暖野はその石像に一目で魅せられてしまった。一見どうということもない石像だった。誰だかはもちろん判らない。だがその人物に、暖野はどこかで会ったことがあるような気がした。
「この像は、この街の歴史のはじめからあったものだそうです。もちろんこの位置にも意味があるらしいのですが、ノンノにはまだ解らないでしょうね」
 真っ直ぐに石像を見上げている暖野を見て、マルカはまたもや謎めいた言い方をした。しかし暖野は、今回は「何故?」と訊くことはしなかった。マルカがそういう言い方をするときは、ほとんど訊いても答えてくれはしないからだ。
「いいですか?」
 マルカが先を促して訊く。
 暖野はそれに軽く頷いて応えた。
 二人はまた歩き出す。
「ちょっと」
 暖野は先を行くマルカを呼び止めた。
 彼が石像の先、真正面の森へ向かおうとしていたからだ。
「そっちには何も――」
 道なんてない、と言おうとした暖野は、その口の形のままに凍りついた。
「何か?」
 マルカが振り返る。
 暖野は自分の目を疑った。ついさっきまでは、そこに道などなかったはずなのに、今は森の中に1本の小径が出現していた。
「どういう……」
 暖野が口を開きかける。
 それを遮るように、マルカが促した。
「さあ」
 暖野は半ば放心状態のまま、歩き出した。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏