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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 マルカと名乗った少年は、暖野の名前を知っている。そして、マルカという名前は暖野自身が付けたというのだ。これは一体どういうことなのだろうか。
「とにかく行きませんか? 実を言うと、あまり時間がないのです」
「行くって、どこへ? それに時間がないって、どういうこと?」
「質問が多いですね。まあ、まとめてされても困りますけど。――とにかく、歩きながら話しましょう」
 マルカはそう言うと、先に立って歩き出した。
「だって私、何も知らないのよ。そもそも――」
 暖野はその後を追いながら言った。たとえ不本意ではあっても、ここに一人でいるよりは話し相手がいた方がまだましだ。「そもそも、私はどうしてこんなのことになったのかさえ解らないんだもの」
「解らないことなんて世の中には幾らでもあるはずでしょう。単に解らないと思い込んでいるだけで、本当は解りたくないということも結構あるのではないですか? そのあたりのことは、もう充分にあなた自身が経験で知っていることのはずです」
「私がいつ、そんなことを思ったの?」
「忘れているだけですよ、今は。まあ、そうしなければならなかった、と言った方がいいのかも知れませんが」
「どういう意味よ」
「あ……」
 マルカは慌てて自らの口を押さえた。
「ねえ。あなた、何を隠してるの?」
「隠しているわけじゃないんです。ただ、今の時点で話すのが適当でないだけで……」
 マルカが言葉尻を濁す。
 忘れている――?
 そうしなければならなかった――?
 それは私が? それとも他の誰かが、私に忘れさせなければならなかったってこと――?
 思考が、暖野の頭の中を駆け巡る。
「あなたは――」
 暖野はマルカを見据えた。睨みつけるような視線だった。「一体私のことを、どこまで知ってるの?」
「すみません」
 マルカが謝る。「本当に、今は言えないんです。今のノンノが、少なくとも今のままであるために、それは必要なことなんです」
「私、今のままなんて嫌だわ」
 そりゃそうだろう。このまま知らない街にいるのなどまっぴらだからだ。そうでなくとも恋人の一人もいないまま、何の変哲もない日々が続くことなど、考えただけでも恐ろしい。
 マルカは、そんな暖野をじっと見つめた。
「本当ですか?」
「そりゃ、そうでしょう? 私だって時が経てば、それなりに変わってゆくわ」
「そうですね。私の言い方が拙(まず)かったんです。私はただ、今の時点でのノンノが他のあらゆる時点のあなたの幻影に悩まされないように、と言いたかったんです」
「……?」
「今は、解る必要はありませんよ」
 マルカは言って、前を向いた。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏