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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 少年は帽子を取って、それを軽くはたいた。彼の髪は黒く艶やかだった。
「マルカって言ったわね?」
 どれだけの間、黙って見つめ合っていただろう。暖野が問うた。
「ええ」
 沈黙が破れたことに安心したような表情になって、彼は言った。
「あなたは――」
「何です?」
「あなたは――」
 暖野は呼吸を整えて言い直した。「私を、待っていたの?」
「そうです」
「どうして?」
「どうしてって――。それは、まだ言えません」
「どうして言えないの?」
「それは、いま私の口からは言えないということです。私はただ、遣わされただけですから」
「ということは、他にも誰かいるのね?」
「ええ。少なくとも、あと一人は」
「ねえ――。マルカって呼んでもいいのかしら」
「どうぞ。あなたが名付け親なんですから」
「私が? 私、あなたなんか知らないわ」
 表情も変えないマルカの言葉に戸惑いつつ、暖野は言った。
「そんなことはないでしょう」
「夢の中で。――それとも、これも夢だということなのかしら」
「あなたの夢に現れたのは、私です。そうでもしないと、ノンノは気づいてもくれなかったでしょうから」
「あなた、今――」
「どうしました?」
「暖野って――」
「言いましたよ。だって、あなたはノンノでしょう?」
「そうだけど。私、まだ名前を言ってないわ」
「あれ? そうでしたっけ。私はてっきり――」
「あなた、最初から知ってたのね」
「ええ」
 少し間を置いて、マルカは頷いた。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏