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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 出札口に背を向ける。無人のホールに、彼女の靴音だけが虚しく響く。
 ここにも誰もいない。さらには、列車が来ることさえなさそうだった。
 時計を見る。
 6時13分。
 この時間、まだこんなに明るかったっけ――
 鏡のような床を踏みしめながら、暖野は思った。
 外に出る。
 建物内の暗さに慣れていた目には、外の光は眩しかった。
 これ以上、ここにいる意味などないように思えた。駅前広場には相変わらず人影がない。噴水の水音が、耳に入る唯一の音だった。その水は夕照に映えて飴色に輝いていた。
 さっきは気づかなかったが、石段の上に立つと広場全体が見渡せた。いつも利用している駅と違って閑散としているせいか、やたらと広く見える。郊外のバスターミナルくらいのものだろうか。
 路面電車のものらしい線路が、噴水のある円い池を一周して街路の方へと伸びている。
 古風な街並みだった。建物は全て石造りで、高さはせいぜい三階しかない。派手な飾りもなく、どこかくすんで見えた。
 今はどの窓にも灯りはない。古めかしいデザインの街路燈が所々にあるが、今はどれも消えていた。
「あれ……?」
 暖野は思わず声を出した。
 ここは、確か――
 彼女はこの光景に全く見覚えがないわけではなかった。そう、ここ数週間のうちに徐々にはっきりしてきた夢の中に出てくる街並みに、ここはあまりにも似ていた。
 と、すると……。
 やっぱり、夢なんだ――
 暖野は納得した。今までとはパターンが違うが、これまでの続きなのだろう、と。
 広場からは放射状に5本の道が出ており、駅から正面方向へ真っ直ぐ続く道と、それと直角に交わる道には路面電車の線路があり、後の2本はそれらの半分ほどの広さしかなかった。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏