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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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「どうするのよ。全く――」
 暖野はため息と共に言った。
「まだ言ってるの?」
 宏美が少し苛ついたように言う。「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。今さら模擬店にしますなんて、言える? 私は絶対に嫌よ」
 時刻は5時過ぎ。これから帰って何か良い案が浮かぶとは、暖野にはとても思えなかった。他の3人は、ぎりぎりまで図書館に残って調べ物をするとかで、まだ学校にいる。宏美が早く解放されたのは、明朝もクラブの朝練があるからだ。
「私、模擬店でいい」
 暖野は情けない声を出した。
「何を弱気になってるのよ。今からそんなんじゃ、学園祭を無事に乗り切れないわよ」
「実行委員なんて、やりたくなかったのに……」
「でも、もうなってしまったでしょ?」
「うん……」
「そんなに嫌なら、はじめから断ればよかったのに」
 しかし、あの場の雰囲気では、とても断り切れるものではなかった。それに一旦は承知してしまった以上、今さら断ることはさらに困難だった。
「とにかく」
 宏美が立ち止まる。「くよくよしても始まらないんだから、何でもいいから考えてみなって。有名なお話のリストを作ってみてもいいわね。そのうちに、何かやりたいのが見つかるかも知れないから。そうね、それがいいわ」
 勝手に説教しておいて、宏美は自分の思いつきに酔っているようだった。
 だいたい、いま抱えている問題だけでも手に余るというのに、これ以上に何を考えろと言うのか。暖野は宏美を軽く睨んでやったが、宏美の方はまだ満足げに頷いていた。
 暖野は、いまは何を言っても無駄だと悟った。何も思い浮かばないでもともと、適当にやればいいのだ。お熱を上げている連中には、到底敵うものではないのだから。
 そう考えると、少し気が楽になった。何も、自分でシナリオを書かなければならないわけではないのだ。
 坂道の先に目をやったとき、暖野の乗るはずのバスが横切るのが見えた。
「あ」
「どうしたの?」
 ようやく人のことに気が回るようになった宏美が訊く。
「バス、行っちゃった」
「うそ。いつもより早いんじゃない」
「また遅れてるだけ、でしょ」
 暖野は、ため息と共に言った。
「次のは確か――」
「15分に1本」
 宏美がバスの時刻表を思い出している様子なので、暖野が素早く言った。
「そうか。悪いことしちゃったわね」
 さして悪いとも思っていない口調で、宏美が言った。
「たまには、私の方が待つわ」
 ここを通る循環バスはこの時間帯、団地へ向かうのが5分から7分に1本、駅へと行くのが先ほど暖野が言ったように15分に1本である。団地方面の便に乗っても、その3分の1は反対回りで結局は同じ駅に着く。残りは団地で折り返して回送になる。いつもは本数の少ない駅行きのバスの時間を見計らって出てくるために、宏美が見送り役になるのだった。そもそも宏美は天気予報で雨以外の時は自転車で通ってきている。今日は降らなかったが、予報では雨だった。
 いつもとは逆のバス停でも、二人のお喋りは続いた。
「べつに創作じゃなくったっていいんでしょう?」
 暖野は言った。
「そうね。でも、できれば全部私たちでやりたいじゃない?」
「まあね。そりゃあそうだけど」
「誰か、そんなのが得意な人って、いたかしら」
「さあ」
「いい加減ね。宏美はどうなの?」
「私? とんでもない。それより、暖野の方こそどうなのよ。よく本を読んでるじゃないの」
「読むことと書くことは別。わかるでしょ、宏美も?」
「わからない」
「もう! 夏休みの読書感想文、さんざん苦労したくせに」
「でも、暖野はちゃんと書いてきたじゃない。それだけでも大したもんだわ」
「おだてても何も出ないわよ。それと、今度こそ自分で書くこと」
「せっかく今度も頼もうと思ってたのに……」
 宏美は口をとがらせた。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏