私に還る日
「――それならどうして、劇がやりたいなんて言ったのよ」
暖野がふくれっ面をして言う。
今は放課後、HRが終わっても残っているのには理由があった。
「だって、他のはあまりにも陳腐じゃない」
宏美が言うと、皆が一斉に頷いた。
「ただそれだけの理由で……」
「学園祭は、全員参加が決まりよ」
真面目くさった顔で宏美が言う。
「だったら、合唱でもよかったでしょうに」
「あれだけ人気がなかったのに? それに、模擬店なんかやったら、参加する人が限られてるわ。絶対、我関せずってのが出てくるに決まってるんだから」
まあ、それはもっともな見解だった。
「いつまでもそんなこと言ってたって、始まらないでしょ」
二人のやりとりを見ていた松丘千鶴が言った。
「そりゃ、そうだけど……」
暖野は不服だった。
「とにかく、劇と決まったからには、何をやるのか決めないとね」
と、佐伯夏美が言う。
松丘千鶴、佐伯(さえき)夏(なつ)美(み)、小鴨(おがも)好恵(よしえ)それに宏美と暖野の5人は、劇の実行委員だった。他の4人はともかく、暖野は最後の一票を投じた者として半ば強制的に――責任をとらされるかたちで実行委員に加えられてしまった。宏美はといえば、学園祭実行委員になると堂々とクラブをさぼれるというメリットまで考えてのことらしい。元々劇を嫌がっていた男子からはひとりも選ばれなかった。
暖野が不満を漏らしているのは、劇が嫌だからでは決してない。誰も、どんな劇をやりたいのかさえ考えていなかったことに呆れているのだ。
「まず、基本的なことね」
千鶴が場を仕切る。彼女の前にはレポート用紙が広げられているが、その紙面には“学園祭”と“劇”の二単語しか書かれていない。「誰かの作品をやるか、全くの創作か」
「そりゃあ、創作よねえ」
「だったら、脚本はどうするのよ」
当然のように言う佐伯夏美に、暖野が返した。
「こらこら、勝手に先へ進まない」
千鶴がたしなめる。「どう? 脚本をどうするかはともかく、創作の方がいいと思う?」
誰もが一応創作がいいと言った。
「もちろん、パロディよ!」
と、またもや佐伯夏美。
「パロディといったら、やるほうも見る方も元になるお話を知ってなきゃいけないのよ。夏美には何か思うところがあるの?」
宏美が訊く。
「それは――」
夏美は少し考える表情になった。「それも、これから決めればいいのよ」
「私は、今はそんなに限定する必要はないと思う」
と、それまであまり口を開かなかった小鴨好恵が言った。「ここにいるみんなが、それぞれあらすじを書いて、その中で一番いいのを採用すればいいのよ。気に入らなければ書き直せばいいんだし、もちろんみんなのを合わせてひとつの作品にするというのも、ある意味では面白いかもしれないわ」
「でもそれじゃ、いくら時間があっても足りないわ」
佐伯夏美が指摘する。
「魅力的な提案だと、私は思うけど」
松丘千鶴が少し考えて続けた。「どうかしら? ここであれこれ言ってても仕方がないし、ひとまず今日は解散して、みんながプロットを考える。それができないなら何かやりたいお話を探してくるというのは?」
「そうねえ」
宏美が言う。
みんなが考え込む。しかし、松丘千鶴以上の案は誰も思いつけなかった。
暖野がふくれっ面をして言う。
今は放課後、HRが終わっても残っているのには理由があった。
「だって、他のはあまりにも陳腐じゃない」
宏美が言うと、皆が一斉に頷いた。
「ただそれだけの理由で……」
「学園祭は、全員参加が決まりよ」
真面目くさった顔で宏美が言う。
「だったら、合唱でもよかったでしょうに」
「あれだけ人気がなかったのに? それに、模擬店なんかやったら、参加する人が限られてるわ。絶対、我関せずってのが出てくるに決まってるんだから」
まあ、それはもっともな見解だった。
「いつまでもそんなこと言ってたって、始まらないでしょ」
二人のやりとりを見ていた松丘千鶴が言った。
「そりゃ、そうだけど……」
暖野は不服だった。
「とにかく、劇と決まったからには、何をやるのか決めないとね」
と、佐伯夏美が言う。
松丘千鶴、佐伯(さえき)夏(なつ)美(み)、小鴨(おがも)好恵(よしえ)それに宏美と暖野の5人は、劇の実行委員だった。他の4人はともかく、暖野は最後の一票を投じた者として半ば強制的に――責任をとらされるかたちで実行委員に加えられてしまった。宏美はといえば、学園祭実行委員になると堂々とクラブをさぼれるというメリットまで考えてのことらしい。元々劇を嫌がっていた男子からはひとりも選ばれなかった。
暖野が不満を漏らしているのは、劇が嫌だからでは決してない。誰も、どんな劇をやりたいのかさえ考えていなかったことに呆れているのだ。
「まず、基本的なことね」
千鶴が場を仕切る。彼女の前にはレポート用紙が広げられているが、その紙面には“学園祭”と“劇”の二単語しか書かれていない。「誰かの作品をやるか、全くの創作か」
「そりゃあ、創作よねえ」
「だったら、脚本はどうするのよ」
当然のように言う佐伯夏美に、暖野が返した。
「こらこら、勝手に先へ進まない」
千鶴がたしなめる。「どう? 脚本をどうするかはともかく、創作の方がいいと思う?」
誰もが一応創作がいいと言った。
「もちろん、パロディよ!」
と、またもや佐伯夏美。
「パロディといったら、やるほうも見る方も元になるお話を知ってなきゃいけないのよ。夏美には何か思うところがあるの?」
宏美が訊く。
「それは――」
夏美は少し考える表情になった。「それも、これから決めればいいのよ」
「私は、今はそんなに限定する必要はないと思う」
と、それまであまり口を開かなかった小鴨好恵が言った。「ここにいるみんなが、それぞれあらすじを書いて、その中で一番いいのを採用すればいいのよ。気に入らなければ書き直せばいいんだし、もちろんみんなのを合わせてひとつの作品にするというのも、ある意味では面白いかもしれないわ」
「でもそれじゃ、いくら時間があっても足りないわ」
佐伯夏美が指摘する。
「魅力的な提案だと、私は思うけど」
松丘千鶴が少し考えて続けた。「どうかしら? ここであれこれ言ってても仕方がないし、ひとまず今日は解散して、みんながプロットを考える。それができないなら何かやりたいお話を探してくるというのは?」
「そうねえ」
宏美が言う。
みんなが考え込む。しかし、松丘千鶴以上の案は誰も思いつけなかった。