私に還る日
金津宏美と高梨暖野は高校の二年生。今は部活を終えての帰りである。正門を出て、バスの走る県道までの坂道の途中で、二人は立ち停まっていた。
「やっぱり……」
宏美が言う。「何か隠してるのね。水くさいじゃない」
「隠してるって?」
暖野はわざととぼけた言い方をする。だが、そんなことが宏美に通用するはずがなかった。
「とぼけたって無駄。だいたい暖野はそういうのが恐ろしく下手なんだから。」
案の定、宏美は言った。「正直に言っちゃいなさいよ」
「……」
暖野は恨みがましい目つきで宏美を見た。しかしそれも長続きはせず、深いため息をついた。「宏美には敵わない」
「そうそう。わかればいいのよ」
「何だか偉そうね」
「そう?」
「べつにいいけど」
「ね、話してよ」
「うん……。でも本当に悩んでるんじゃないのよ」
「じゃあ――」
宏美の顔が輝く。それを見て、暖野はすかさず言った。
「ひとつだけ言っとくけど、間違っても宏美の思ってるようなことじゃないからね」
「ほんとに?」
「ほんとだってば。嘘ついてどうするのよ。――ま、自慢にもならないけどね」
「あ〜あ。どうして私達にはいっこうに浮ついた話がないのかねぇ」
さも残念そうに宏美は言った。
「そういう年寄りじみた言葉遣いしてると、もっと遠ざかるかもよ」
「鋭いご指摘、感謝するわ」
「まあまあ、そう拗(す)ねないの」
暖野は宏美の肩を軽く叩いた。
「――で、さっきは何を言ってたの?」
「何って?」
それまで暖野を一方的に問い詰める方だった宏美は、突然自分が訊かれる立場になって間の抜けた顔をした。
「私に訊きたいことがあったんじゃないの?」
暖野が言うと、宏美は「ああ」と、ようやく問いの意味を理解したようだった。
「立場が逆転しちゃったわね」
宏美が苦笑する。
「どうせ、クラブの愚痴だとは思うけど」
暖野は言ってやった。
「やっぱり……」
宏美が言う。「何か隠してるのね。水くさいじゃない」
「隠してるって?」
暖野はわざととぼけた言い方をする。だが、そんなことが宏美に通用するはずがなかった。
「とぼけたって無駄。だいたい暖野はそういうのが恐ろしく下手なんだから。」
案の定、宏美は言った。「正直に言っちゃいなさいよ」
「……」
暖野は恨みがましい目つきで宏美を見た。しかしそれも長続きはせず、深いため息をついた。「宏美には敵わない」
「そうそう。わかればいいのよ」
「何だか偉そうね」
「そう?」
「べつにいいけど」
「ね、話してよ」
「うん……。でも本当に悩んでるんじゃないのよ」
「じゃあ――」
宏美の顔が輝く。それを見て、暖野はすかさず言った。
「ひとつだけ言っとくけど、間違っても宏美の思ってるようなことじゃないからね」
「ほんとに?」
「ほんとだってば。嘘ついてどうするのよ。――ま、自慢にもならないけどね」
「あ〜あ。どうして私達にはいっこうに浮ついた話がないのかねぇ」
さも残念そうに宏美は言った。
「そういう年寄りじみた言葉遣いしてると、もっと遠ざかるかもよ」
「鋭いご指摘、感謝するわ」
「まあまあ、そう拗(す)ねないの」
暖野は宏美の肩を軽く叩いた。
「――で、さっきは何を言ってたの?」
「何って?」
それまで暖野を一方的に問い詰める方だった宏美は、突然自分が訊かれる立場になって間の抜けた顔をした。
「私に訊きたいことがあったんじゃないの?」
暖野が言うと、宏美は「ああ」と、ようやく問いの意味を理解したようだった。
「立場が逆転しちゃったわね」
宏美が苦笑する。
「どうせ、クラブの愚痴だとは思うけど」
暖野は言ってやった。