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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 それからさらに数日。
 暖野は眠たげに授業を受けていた。このところ、ずっと寝不足続きだ。どうせ眠れないのなら眠気もなければいいのにと思えるほどだ。一度など降りる駅を寝過ごしてしまった。幸い遅刻はせずに済みはしたが。
 だが、さすがに朝のどうしようもない気怠さとは馴染みになりつつもあった。元々朝に強い方ではなかったが、ここ数日は特にひどく、倒れないのが不思議なくらいだった。
 いっそのこと、倒れてくれればいいのに……。
 暖野は思った。そうすれば、少なくとも体育の授業だけは受けなくて済むからだ。もっとも、今は体育の時間ではなかったが。
 睡眠不足の原因は、あの夢にあった。しかも、今朝のはとりわけ鮮明に記憶に残っている。
 それは、こんな夢だった。

 一人の少年が、見知らぬ街角で佇んでいる。そこは石畳の広場になっていて、まるでヨーロッパの古い都市を思わせた。少年は暖野の姿を認めると、街路灯の支柱に預けていた身を起こし、彼女に近づく。そして語るのだ。
「やっと、逢うことができましたね。私はこのときを、ずっと待っていたのです」
 そして、こうも言った。
「どうか、応えてください」
「応えるって、どうすればいいの?」
 少年の真摯な眼差しに、暖野は訊ねる。
「簡単なことです。それは――」
 夢はそこで唐突に終わった。目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、彼女の意識は無理矢理現実へと引き戻されたからだ。夢というものはいつも、ここぞという肝心なところで醒めてしまう。その分、よりいっそう印象には残るのだが、少なくともその朝いっぱいは寝覚めの悪い思いを引きずることになる。
 今日の暖野が、そうだった。彼女はこの手の夢を初めて見るのではなかった。そう、ここ数日彼女を悩ませていたものこそ、まさにこの夢だったのだ。
 夢の中に具体な物が出てきたことで夢判断に照らし合わせることは可能にはなったが、そんなことは意味のないことだった。なぜなら、彼女は同じ夢を立て続けに見ていたからだ。それが外国風の街並みだろうと古風な街路灯だろうと、個々の物それ自体には、さして重要性は感じられなかった。それよりも同じ夢ばかり何度も見るということにこそ、問題があるのだった。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏