カガミノカギ
カガミノカギ
病院に駆けつけたときはもう、親父は殆ど意識が無かった。
おふくろは小さい頃に家を出てしまい、俺は親父の男手ひとつで育てられた。
もっとも親父は殆ど家には居らず、定職も持っていなかった。
おふくろが家を出たのもそれが主な原因だと、親戚のおばちゃんも言っていた。
しかも何故家を空けるのか、未だに語ってはいなかった。
そんな親父が今際の際にオレに手渡したもの――それは。
鎖の付いた二つの鍵だった。
どちらも鍵としては単純なものであったが、片方が何の素っ気もないモノであるのに対し、もう片方は偉く見事な装飾が施してあった。
何の鍵なのか、安っぽい造りの方は直ぐに解かった。
親父のたった一つの持ち物である机の、引出しの鍵だ。
鍵を開くとかなりの数のノートが重なって入っていた。
俺は俺の知らない親父の一端が分かるかも知れないと思い、ノートを上の方から捲っていった……。
ノートに書かれていたのは日記だった。
しかし几帳面に毎日書かれるようなものでは無く、何か有った時に忘れない為に記憶しておく、そんなものだった。
何か有った。その荒唐無稽な話は初め、小説か何かのネタつくりなのかと思った。
あの事があるまでは……。