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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【二~三】

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三 出会い・わかれ・サイカイ(前編)



 ――いつもと同じ帰り道。
 ただ、いつもと違っていたのは、今日は隣りに織子がいないこと。その代わり、変な転校生に纏わり付かれていること。
(でも、香津美の初恋相手なんだよね?)
「違うわよ!バカ織子!」
 彼女の勘違いは今に始まったことではない。
 だが、それを否定して納得させるまで、いつもかなりの時間を費やすことになる。なので最近は、さほど実害のないものに関してはそのまま放置していたのだが、今回ばかりはそうも言ってられそうにない。
(なんであの子は、ああもバカなの!まったくどうしてそんな発想になるのか不思議でならないわ!)
 香津美は、今すぐにでも打ち消したいことをぶつける相手がいない現状に、苛立たしく思う。
 そして未だに後を付いてくる、不審極まりない一人の存在にも……。
 
 香津美はたまに、織子と友達でいられる自分にが信じられなくなることがある。
 そんな時は決まって彼女に振り回されている時なのだが、香津美自身、そのことをすぐに忘れてしまう性質(タチ)なので、中学からの『腐れ縁』が今もって続いているのだった。
(初恋な訳、あるはずがないじゃない)
 忘れかけていた……。忘れようとしていた……。
 でもまだ、思い出にできないでいる記憶が再び蘇ってくる。
(恋か……)
 もし恋と呼べるものがあったなら、あれが最初で今のところ最後の恋――それは、昨年のこと……。

               ☆

 その日の二年B組の教室内は、午前中から甘く香ばしい薫りに包まれていた。
 原因となったのは、昼休み直前の授業――選択科目である家庭科の調理実習にあった。
 クラスのほとんどの女子がその授業を受けており、彼女達の席には、思い思いの趣向を凝らしたカップケーキが鎮座ましましていた。
 男子供の羨望を余所に、お互いに品評し合い、または食べ比べては話しに花を咲かせる、そんなささやかな女子会が教室のあちこちで見受けられていた。
 一方、香津美はといえば、それらの輪に加わわず自分のを眺めては一人悦に入っている。
(ふむ。我ながら、なかなかの出来映えだわ)
 手先が人一倍不器用なうえ、料理のことなどからきし苦手な彼女であったが、あえて今回ばかりは香津美よりも遥かに料理上手な織子の手を借りることなく完成させた、『渾身の力作』であった。
 しかし、自己満足の至福のひと時に浸っていられたのも束の間、香津美の背後から音もなく静かに伸びた手が、目前の『至極の一品』を奪い去っていく。
「お、うまそうじゃん!ごちでーす」
「え?ちょ、ちょっと!」
 慌てて振り向く香津美の背後には、日系ハーフの男子生徒、ハヤト・M・アンダーソンがにこやかに立っていた。
 彼は外資系企業の重役を父に持つおぼっちゃま育ちで、日本人離れした容姿と生まれ持ったフランクな性格から、クラスでも人気の男子であった。

 幸か不幸か、香津美はこれまでクラスの男子生徒を異性として特別意識したことはない。
 天性の運動神経に恵まれた彼女は、男子といえば手頃な競争相手でしかなく、恋愛対象として見ることなど皆無である。
 だが、決して非モテだった訳ではなく、告白のため手紙をもらうことも校舎裏に呼び出されることもしばしばあっのたが、その都度『果たし状』や『タイマン勝負』と勘違いをすること数回……兎に角、その辺りの感覚がかなり疎い女の子だった。
 そんな彼女に些かの変化を齎したのが、高校進学と同時にクラスメイトとなったハヤトの存在であった。
 二人の距離が急接近したのは、クラスにも馴染んだ頃に開催された、クラス対抗の球技大会でのこと――男子のバスケが一年の決勝まで勝ち進んだ時、応援席にいた香津美に向かって「この試合に勝ったらデートしよう!」と、いきなり声を掛けてきたのが彼であった。
 香津美が呆気に取られている間に試合は開始され、恥ずかしさのあまり終始まともに観戦できないまま終わりを迎えた。
 結局、その試合に男子は勝つことができず二人がデートすることもなかったのだが、以来、何かにつけて一緒にいることが多くなっていくのだった。