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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【二~三】

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 サヲリはドン引きした……。
(――なに!?なんで高校生に説教されて、ガン泣きしてるのよ!この人は!!)
 その場にぺたりと跪いて泣き伏せる楓華を見て、サヲリはすっかり恥ずかしい雰囲気に包まれるのであった。
「ま、まあ……今回の一件は、奴らの誘いにまんまと乗せられた鏡の独断先行が招いた結果……でもあると思っています」
(でも……これで我々の動きを世界中に知らしめてしまったことには違いないですわね……。さて、どうするか?……)
 サヲリが熟考に耽っていると、不意に目の前の電話が音を立てた。
 楓華は慌てて涙を拭うと、息を整えて受話器を手にする。
「――丹波御所からでございます。ただ……お相手はご隠居さまではなく、防人さまでございますが……」
「防人が?……相変わらず、こういう時には早いですわね」
 憂鬱な表情を浮かべながらも、サヲリは楓華から電話を受け継いだ。
「……サヲリです」
『よく平然とこの電話を取れたものだな!あんな失態を全世界に垂れ流しておきながら、こちらに一報もないとは、どういう了見か?三秒以内に答えてみろ!!三!、二!、一!何も答える気はないようだな!だいたいお前如きが……』
 サヲリは受話器を耳から離して放置――相手の矢継ぎ早に放たれる小言ともいえない文句を、ただ聞き流していた。
『――おい!神谷サヲリ!!聞いているのか!おい!!』
「――で?おじいさま……ご隠居さまからはなんと?」
『ご隠居?……ご隠居は特に……放っておけと、それだけだ。だが、お前のやったことには、絶対、責任を取らせるからな!近日中にだぞ!それだけは覚悟しておけ!わかったな!!あーっと、こら!まだ、私が話してる最中であろうが!……』
『もしもし、さっちん?』
 急に話し相手が、むさ苦しい男から可愛らしい女の子の声に変わった。
「ああ、蓮華ですか?あなたもそろそろ、こちらへ戻っていらっしゃい。色々と手伝っていただきたい事もあることですし……。いつまでもそんな男の傍にいると、頭がおかしくなってしまいましてよ」
『そう?防人君も、そんなに悪い人じゃないよ。ご飯奢ってくれるし。ご隠居のおじいちゃんから頼まれたことがあるから、それが終わったらそっちに帰るね。あーさっちん、悪いんだけど、お姉ちゃんに替わってくれる?』
受話器を再び、楓華へと差し出す。
「蓮華からですわ、楓華お姉さま?」
 広がる夜景を目に、サヲリは一人物思いに耽る……。
(おじいさまは何も仰っては下さらなかった……。信頼を得ている……と思いたいが、まだお認めになっていない……ということですわね、きっと)
「――失礼いたしました」
 楓華は電話を終え、蓮華からの言伝を伝える。
「丹波からのお庭番が、既に彼女と接触した模様です」
「彼がこの街に入った?……さぞかし感動のご対面だったのかしらね。そのことは、大川さんの方にも伝えておいて」
「かしこまりました」
「さて!」と、サヲリは意を決したように椅子から立ち上がると、楓華の手を取りその部屋から足早に退室する。
「夕食の前に湯に浸かります。ほら、楓華!あなたも一緒に行くのよ!」
「えっ?……いえ、私は……」
 躊躇する楓華を引っ張り、サヲリは長い廊下をずんずんと進んでいく。
 サヲリは楓華を羨ましく感じていた。自分にも姉や妹がいれば、もう少し違う人生を送れたのかもしれない……と。
「嫌なことはお風呂に入って、綺麗さっぱり忘れるのが一番ですのよ!それと、信民党の橘幹事長と浴室に電話を繋いでちょうだい!」
「いえ、しかし……忘れるのは問題かと……あ―――れ―――……」と、楓華は連れ去られるのであった。

              ☆

 信民党幹事長、橘薫(タチバナ カオル 六十四歳)』は、党本部の自室でその電話を取っていた。
「――にしても、あれには正直驚きましたよ。何のご連絡もありませんでしからな……」
 対するサヲリは猫足のバスタブへと浸かり、楓華といえば、まともにサヲリを見ることもできずに、湯船の端で縮こまっている。
『そうですわね……こちらとしては、「チャンス」を作って差し上げたつもりですのよ……。これを機に内閣不信任案を提出……政権奪取にはいい口実ではなくって?』
 橘は秘書に目配せする。彼の手元のメモには、『緑竜会』の文字が書き込まれていた。
「総理官邸はてんてこ舞いの大騒ぎになってますよ。まぁ、我が党としても、一気に解散総選挙へもっていきたいのは吝かではないんですが……うちの台所事情もご存知でしょう?選挙資金のも問題ですよ……。前回の衆院選で歴史的大敗を喫した我が党には、もう大手の銀行は見向きもしません。真に情けないことですがね……。これまでなら献金と相殺していたものですが、今となっては担保がないと金も借りられんのが実状という訳でして……」
『……わかりましたわ。その件はこちらで手を打ちましょう。でも、くれぐれもご内密にお願いしますわ……。この国が、実は『女子高校生の逆援助』で成り立ってました……なんてことが、公になりませんように……』
「それならば、こちらとしても願ってもないことですよ。週明けには総裁の了解も取り付けることができるでしょう」
(いつまでも、こんな娘っ子にいいようにされる『この国』ではないわ。先代が逝ったのもいい時期かもしれんて……。だが、潰してしまうのは簡単だが、その前に利用できる限り搾り取ってやらんとな……)
 橘は黒く微笑むのだった。

 サヲリはバスローブに着替えると、足早に浴室を後にする。
「あのセクハラオヤジ!今度食事でもどう?ですって……気持ち悪いったらありませんわ!」
「お疲れさまでございました……」
 サヲリと初めて湯船を共にした楓華は、別な意味で疲れていた。
「もうこんなことさせないで。少し気を引き締めて行動して欲しいものですわ……鏡も、あなたも……。それと――」
 サヲリは思い立ったようにリビングへ向かう足を止め、振り返って楓華を指差す。
「楓華。明日、彼女を連れてきて」
「彼女……とは?」
「篤岸(あっけし)よ……池上静。やはり、回りくどいやり方は性に合いませんの」
「拉致……してこいと……」
「手段は選びませんわ。でも、なるべく穏便に、そして必ずお連れするのよ。こうなった以上、全てを話してでも協力を仰いだ方が確実ではなくって?それに……彼女には別件で聞きたいこともありますの……」