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箱篋幽明

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マイルドセブンスーパーライト


 フラミンゴは愛煙家である。甘党の私は理解できない。煙草というのはリセットの道具であると思う。嫌な事、辛い事があったときに、煙草が吸いたくなるというのはわからなくない。しかし、フラミンゴが煙草を吸っているのは「かっこいいから」ってな理由なのである。食べることを趣味にしているのに、どうして味覚を大事にしてあげないのだろう。
 ……なんてことを甘党は言うけど、煙草は美味い。食後の一服なんかは特に。甘党は甘党だから、デザートにイチゴでも乗ったケーキを食べれば満足なのかもしれないがな。私の食後のデザートは一本のマイルドセブンなのだ。昼休みも後半、食堂で不味いラーメンを腹に入れた後(うちの大学の食堂は安いばかりで少しも美味くない)、私は申し訳程度の喫煙スペースで至福の時を過ごしていた。一畳ぶんしかねーだろというこの喫煙スペースは息がつまりそうだ。それでも、学内唯一の喫煙スペースはいつでも超満員だった。しかしその日は私一人で、もう、「いやな予感」はしていた。甘党と出会ってから、どうにもほん怖的体験をすることが増えた。そういうのは大抵、甘党と二人きりのときだとか、一人っきりのときに起きた。だから、いつも混んでるここが今日に限って空いてる時点でこれは、と思った。でもマイルドセブンの誘惑には敵わず、一本くらいなら大丈夫だということにして、ベンチに座り、ポケットからライターと、ライトブルーのパッケージを取り出した。一本摘まんで、そのまま口に咥える。そうして、フリント式ライター(ただのコンビニライターだ)のヤスリを回した。ジッ、とヤスリとフリントが擦れる音がして、火花が散る。それがオイルに引火して、そうして炎が出る。ちょっとでも煙草を吸う人なら、目を瞑っていても出来ることだ。ライターから炎が出た瞬間、喫煙室は大きな音を立てて爆発した。
 ごうごうと、ライターの比ではない炎が上がり、黒い煙が周辺を包んでいった。天井に付いていた喚起ダクトのふたがただの金属の固まりみたいになって落ちてきて、目の前には溶けたガラスと黒焦げのスタンド灰皿があった。爆発の直撃を受けて壊れたスプリンクラーが非効率に雨を降らせ、周辺を濡らしていった。喫煙室に、引火性のガスが充満していたのだろう。常時換気されている喫煙室で、こんな事故が起こるなんてありえない。テロか。
 そこまで考えて、あんな大爆発の渦中にいてどうして私は無事なんだ、と思ったら景色は元に戻っていた。くそ、またやられた。つけっぱなしになっていたライターで口元の煙草に火を点けた。



作品名:箱篋幽明 作家名:塩出 快