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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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経費削減

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 俺の提案書の内容はざっとこんな感じだ。今まで特定の者しか利用できなかったジョブ画面に汎用性を持たせ、関連する多くの社員が情報共有できること。入力作業は極力簡素化し、アルバイト社員でもできるようにすること。システム利用料は従来の半分、年間で600万円程度に抑えること。もちろん今より数段バージョンアップしていることが条件だ。
 社内に「システム検討チーム」なる組織が作られ、週に一度、システム検討会議が行われるようになった。俺はチームのメンバーに選ばれたわけではないし、俺の提案がそっくりそのまま採用されたわけでもない。一つのきっかけを作った社員という位置付けで、それなりの評価を受けた。
 新システムに移行されて約半年が過ぎた。オペレーションは簡素化され、旧システムに比べて遙かに省力化が進んだ。使用している社員の間でもそこそこ評判は良かった。何といってもシステム利用料が従来の半分になったことが会社にとっては大きな経費節減となった。
 俺は、僅かばかりの報奨金を貰い、簡素化され、増々退屈になった在庫管理の入力作業を続けた。金を貰ったことよりも、この歳になって会社に自分の存在をアピールできたことが嬉しかった。今となっては、数年前に俺の給与明細ネット配信案を握りつぶした部長の言葉に感謝せねばならない。「大切なことは言い続けること」言い得て妙だ。
 残業時間も減った俺は以前に比べ、早く家に帰るようになった。父親が早く帰ってきたところで娘のあゆみが喜ぶわけでもない。多少会話が増えたこと以外、大きな変化はない。
「そういえば今日、お父さんの会社のアルバイト募集の記事を見たよ」
「そうか、おまえ応募してみたらどうだ」
「やだよ、お父さんと同じ会社でバイトなんて。ましてや単純な入力作業でしょ」
 単純な、という言葉が引っ掛かったが俺は作り笑いをして頷いた。もしも本当に娘がバイトで入ってきたら戸惑うのは明らかにこっちの方だ。

 紅葉が赤く染まり、銀杏の葉が歩道を黄色く覆い始めたころ、俺は部長に呼ばれた。異動を告げられた時と同じ1階ロビーの一番隅にある来客スペースに俺と部長は向かい合った。報奨金は貰ったし、いったい何の話かと訝しがる俺に向かって部長は言った。
「山本君、冷静に聞いてほしいのだが」
「はい、何でしょう」
「ほかの会社で実力を発揮してほしいんだ」
「は?」
 俺は一瞬脳みそが溶けてしまったかと思った。しかし、「ほかの会社」という部長の言葉を少しずつ手繰り寄せると、自分が何を言われているのかが理解できた。
「退場勧告ということですか?」
 部長はそれには答えず、事務的に乾いた言葉を続けた。
「君がきっかけを作ってくれた新システムのおかげで、会社は大きな経費節減を実現できた。これは本当にありがたく思っている」
「はい、それはある程度自負しています」
「実はアルバイトを一人採用した」
「募集記事は見ました」
「そのアルバイトに君の仕事を引き継いでもらうつもりだ」
「どういうことでしょうか」
「新システムのおかげで、入力処理の手間も随分軽減された。君のようなベテランにやってもらうような仕事ではなくなったんだよ」
 ベテランとアルバイトという言葉が交互に俺の頭の中を往復した。俺は天井を見上げ、大きなため息をついた。
作品名:経費削減 作家名:タマ与太郎