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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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経費削減

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 青天の霹靂とはまさにこのことだ。頭の中ではじけ飛んだ様々な意識を整理する間もなく、部長の言葉は容赦なく俺の耳に飛び込んできた。
「退職金はもちろん割増だ。会社都合だから失業手当もすぐに支給される。再就職先だって会社が全面的にサポートさせてもらうよ」
 部長の声は、まるで新商品を売り込むような営業トークに変わっていった。これだけしてあげるんだから、とっとと辞めてくれ、と言われているのと同じことだ。
「それで、いつまででしょうか」
 俺は、「いつまでいさせてもらえるのか」と言いそうになったが咄嗟にこう誤魔化した。
「申し訳ないが、年内いっぱいということで準備してほしい」
「そうですか、わかりました」
 考えさせてほしいとか、家族と相談させてほしい、などという雰囲気ではなかった。俺の中では、もはや「わかりました」という言葉以外に選択肢はなかった。 
 定時となり、俺は帰り支度を始めた。残業などする気はない。新システムは残業代の節約にも一役買っているじゃないか。自分が自分に対して呟いた皮肉に俺は苦笑いをした。考えてみれば笑える話だ。自分がきっかけを作った経費節減のプロジェクトのおかげで俺は仕事を失った。システム利用料の削減額が600万円。俺の年収が約600万円だから、会社としては合わせて1,200万円の経費節減になったわけだ。それは以前旧システムに払い込んでいたシステム利用料の金額と同額だ。皮肉な偶然に俺はもう一度苦笑いをした。
1,200万円の経費節減の代償として、会社は新システムを手に入れ、一人の中年管理職を失った。そのコストパフォーマンスを判断するのも会社だ。

 駅に向かう道で、見覚えのある後姿が視界に入ってきた。坂口だった。俺は少し早歩きをして声をかけた。
「よう、今日は早いな」
「おう、山本か。お前も早いじゃないか」
 俺は努めて平静を装った。俺の勧奨退職の話は近いうちにどうせ彼の耳にも入るだろう。坂口は右手でおちょこをクイッとやる仕草を見せながら、「一杯やってくかい?」と子供のような笑顔を見せた。
「いや、悪いけど今日は帰るよ」
「そうか、じゃあまた今度な」
 たいしてがっかりしていない坂口に向かって、俺は少し姿勢を正してこう言った。
「経費節減の話なんだが、やっぱりお前が言うように節電ぐらいがちょうどいいな」
 俺はポカンとしている坂口をおいて駅へ急いだ。

<終わり>

作品名:経費削減 作家名:タマ与太郎