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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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サムは、ヒルデとハワードに向かって叫んだ。
「どうしてこんなことをするの? 酷いじゃないか! 話は全部、ハルから聞いたよ。でも、ぼくは信じられないよ! お父さんも、お母さんも、みんな村で楽しく暮らしていたじゃないか!  ぼくは、お父さんとお母さんの本当の子供じゃないかもしれないけど、でも、ぼくはそれでもいいよ! 前みたいな優しいお父さんには戻れないの? 明るいお母さんになれないの?」
 そう言いながら泣くサムに、ヒルデは呆れたように煙草の煙を吐いた。
「サム、悪いけど、これが私たちの本当の姿なんだよ。あれは幻だったのさ。そんなものをいつまでも追っていてもしょうがないだろ。もう忘れな」
「嫌だよ!」
 そう言って飛び出しそうになったサムを、後ろにいたはずのフォーラが制した。
「サム、残念だけど、今のお父さんとお母さんは、サムの知っている人たちじゃないわ。今はね。でも、すぐに、サムのことを思い出してくれる。そのためにハルは森に入るのよ」
「そのために? 何のためだよ!」
 サムは、体を抑えるフォーラの手を振りほどいて、金の髪の女性を涙の滲んだ目で見つめた。
「ぼくには分からないよ!」
「分からなくていい」
 サムの叫びに、今度はハルが答えた。
「でも、いずれは分かる。今は、分からなくていいよ、サム」
 そう言って、ハルはサムの横に立ち、三人の猟師たちを見回した。
「すまないが、私は先を急ぐ身なんだ。通して欲しい」
 すると、ヒルデが吸い終わった煙草を投げ捨て、靴で地面にこすり付けて、苦笑した。
「急いでも、もう遅いよ。私たちがどいてやったところでどうにもなりゃしない。もうこの森は私たちのシマなんでね」
「そうか」
 ヒルデの言葉に、今まで黙っていたセベルが答えた。
「だが、私たちはそれでも行かなければならない」
 そう言って、セベルはフォーラに目配せをした。
 フォーラは、頷いて、こう言い放った。
「だったら、力づくでも通してもらいましょ!」
 言い放つか放たないか、その間に、フォーラの姿はサムの隣から突然消え、一瞬にしてロイの懐に入り込んだ。