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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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その翌日、日の出とともに起きて、朝食を食べ、ハルは傷を見に来たアースと再び会った。
 医者は黙ったままハルの足に巻かれた包帯を解き、傷口を見て、消毒をして新しい湿布を当てていった。
 その最中、傷の手当をしているアースの顔を見上げて、ハルは、意を決した。もう、迷いはない。
 ハルは、傷口の手当が終ると、昨日フォーラに何かを言われたのか、ばつの悪そうにしているアースに向かって、一言、こう言った。
「森に帰ります」
すると、アースは立ち上がって笑った。
「分かった、それじゃあ、準備しようか」
ハルは、頷いた。
「森に帰る」と決めて、ハルはそれから一週間、療養をすることに決めた。
 とはいっても、アースやフォーラのいる街の診療所ではなく、ハル自身の希望によって森に程近い丘のふもとにある友人たちの家で厄介になることになった。
 もちろん、足に傷を負っているハルはそこまではとても歩けないし、医師は必要なので、アースがついてきてくれることになった。
 この先一週間の療養先、森の近くの丘にあるのは一軒のレストラン。三人の兄弟であるシリンが切り盛りしていたが、専ら森の住人たちや森の村の人間たちが時々利用するだけだった。街道から丘を挟んで死角にあたるそのレストランは、人目に付きにくい。だから、町の人間やひとかどの旅人はめったに利用しなかった。
 そのレストランの主人はそれぞれコックのトッド、ティーブレンダー、またはビールマイスターのラッティ、そして陶器職人のホーリィで、ラッティは女性だった。
 三人の主人はハルたちを喜んで迎え入れ、二人がついたその夜にはさっそく歓迎の夕食でもてなしてくれた。
 森に自生するハーブや、時期にあった山菜、肉などを使った料理はどれもいい香りを立て、何年も寝かせたワインは濃厚な色を持って食卓を華やかにさせた。脚の傷が癒えていないハルは、アースから酒を禁じられていたので、香り立つワインをあきらめて、ラッティに頼んで滋養に良いハーブティーを貰った。
 それから一週間、何一つ面倒なことが起こることもなく過ぎていったが、最後の一日になって、森の中から、そして、街のほうから、一人ずつ、人間がレストランに顔を出した。
 アースの尽力もあって足の傷はすっかり塞がり、立って歩けるようになったハルの元に現われたその二人の人物のうち、一人は、二人の子供をつれていた。
 漆黒の髪に金色の瞳を持った男性で、名をセベルといった。月のシリンだという。ハルにはすぐに分かった。そんな風に感じられたからだ。彼のつれてきた子供は、サムとカレリだった。
 そして、それと時を同じくしてレストランに現われたのは、もう一つ地球の月のシリン、フォーラだった。
 彼らは互いに挨拶をし、自己紹介を済ませると、トッドたちの設けた宴席に落ち着いた。かくしてレストランにはハルをはじめ、アース、フォーラの夫婦、セベルとサム、カレリが合間見えたのである。
 そこで、アースはラッティにハルの知らない酒を、フォーラはワインを、セベルはビールを頼んだ。二人の子供には森で取れた新鮮なブドウの実のジュースが出され、レストランの三人の主人はそれぞれ好みのワインを開けた。料理は、それぞれが集まった時間が昼であったので、軽く調理されたパンやサンドイッチが出された。
「ところで、セベル殿にフォーラさん、今日はどのようなご用向きで?」
 食事も中盤に差し掛かった頃、ハルが、あらためて、二人の大人と二人の子供に尋ねた。
 その質問には、フォーラが先に答えた。
「私は、アースの見張りに。またハルさんに意地悪をしたら困るでしょ?」
 その言葉に、アースは頭を抱えたが他の皆はどっと笑った。
 次に、セベルが答えた。
「私は、この子供たちをハル、あなたに会わせる為に。それと、私のパートナーであるナリアの言葉を伝えに来ました」
 そう言って、セベルは、床に置いてあった麻の鞄から木の枝を一本、取り出した。
「アース、あなたは惑星のシリンであると同時に、その存在を安定させるために地球の信仰に出てくる巨大なトネリコの木を依り代とされていると聞きました。ナリアは、一週間前、その、あなたの伝言であるトネリコの葉に答えて、彼女の依り代である、このブドウの木の枝を私に託しました。どうぞ、お受け取りを」