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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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微笑を浮かべながら問いかける彼女に、ハルは少し、今の自分の情けなさが消えていくのを感じた。 彼女ならば、何も言わず、この愚かな人間の心のうちを受け止めてくれるのではないか。
 そう思った瞬間、ハルは、自然と口を開いていた。
 そして、いつの間にか、自分に用意された選択肢や、騙されてしまった自分の愚かさに自暴自棄になっている心の内を、話してしまっていた。
 ハルの話が終ると、フォーラは、呆れた顔をして、溜息をついた。
「まったく。本当に口下手なんだから。ハルさん、そんなの気にしなくてもいいのよ。どうせ、明日になればそんな『二つの道』なんて偉そうなこと、覆っちゃってるわ」
「え? 覆るって?」
 驚くハルに、フォーラは苦笑した。
「医者のクセにね、アースって、どこか抜けているのよ。医者として大切なことが。オルビス先生から何を勉強したんだか、これじゃ分からないわ。今回だったら、あなたの、そうね。その自暴自棄。それが読めないっていうか。分かっていても、フォローできないのよ。だから、私がいつもその穴埋めをするんだけど。私が精神科医じゃなかったら、とっくに患者さん逃げちゃってるわ。あれはあれでね、あなたを助けたいって思っているのよ。二つの選択肢を出したのは、きっと、あなたが絶対それでは納得しないって分かっていたから」
「では、あれは」
「そう、励ましのつもり。あくまで『つもり』なんだけどね。そうね。うまく翻訳すると、自分が納得いくまで考えて。そのための代替案は一応出しておくよって感じかしら」
「そうだったんですか。私はてっきり、それしか道はないのだと」
「そんな言い方をしたからよ、アースが。あんな事言われれば、あなたじゃなくたって悩んじゃうわ。一週間って言う時間はね、ただ、傷口が塞がって歩けるようになるまでの時間でしょ。実際はね、それより時間はあるのよ。もう遅いって言っても、どれだけ時間が経っても遅いことには変わりないでしょ。もうこうなっちゃったんだから。ナリアさんは変わらずに森を守ってくれているんだしタチの悪い猟師は、そうね、どこかで伸びちゃっているかしら、アースにやられて。考える時間は、本当はもっと沢山あるのよ」
「でも、私は、それに甘えてはいられないんです」
「あら。甘えることは、いけない事じゃないわ」
 フォーラの乾いた声が、またもやハルの心を揺さぶった。
「真面目すぎるのね、あなたは。責任感が人一倍強いの。うん、悪いことじゃないわ。むしろ、とってもいいことよ。でもね、過ぎると体に毒よ。甘えたっていいじゃない、甘えられるものなら。アースだって、こんなことがなければずっとダラダラしていたでしょうし、ナリアさんだってきっとこう言うわ。『少しは頼って』って」
「それは、そうですが」
 何も言い返すことが出来なくなって、ハルは困ってしまった。
 そういえば、ハルは今まで自分の恥ばかりに目をやっていて、周りの人間がどう思って何をやっているかを考えたことがなかった。アースがどうして助けてくれるのか、ナリアがどうしてハルの森にわざわざ来てくれたのか。
「縁、とかって言うんでしょうね、そういうの」
 フォーラが、不思議なものを見るような顔をしているハルに、優しく微笑みかけた。
「大切にしなきゃ」
 そう言って、フォーラは持ってきた夕食をハルにもう一度勧めた。
 ハルは、自然と心が解きほぐされて軽くなっていたので、夕食も勧められるまま頂いた。
 幸い、まだ冷めていなかった。
 温かな料理のぬくもりに、ハルはひそかに涙をこぼした。