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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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一つ目を選べば、ハルは森に帰り、惑星のシリンの力を借りて猟師たちを追い払えばいい。しかし、街道を除いて、一度シリン以外の人間に開かれてしまった森の中は、もう二度と閉じることは出来ない。迷わすことが出来なくなってしまうのだ。
 そうすれば、また猟師たちやハワードのような密猟者たちが来るたびに惑星のシリンの力を借りて退けなければならない。そうでなくても森の村の住人にまで危害が及ぶかもしれない。
 二つ目を選べば、ハルは、この地球で暮らしていたことの記憶を全てなくしてもう一つの地球で暮らすことになる。森はナリアが守り、ナリアの叡智は決して森に人を寄せ付けなくなるだろう。森はもとのように街道を除いてその全貌を閉ざし、密猟者はもとよりシリンと森の村の人間以外のものを迷わせるようになるだろう。
 しかし、どの道をとっても、星のシリンの力を借りなければならない。ハルは、彼自身のなすべきことを失い、ただ守られているだけの存在になってしまう。
 それでは、納得がいかなかった。
 ハルは、答えを出さないまま、その日は一日をじっと寝転んだたまま過ごした。
 夕食は、ハルを助けた医者の妻である、美しい女性が持ってきてくれた。美しいブロンドに金色の瞳を持つ彼女は、地球を回る衛星、月のシリンだという。
 どことなくナリアに似ている。雰囲気は違うのだが、見た目はそっくりだった。名をフォーラと言った。彼女からの情報で、もう一つの地球のシリン、あの医者の名は、地球そのものの英名、アースだということが分かった。
 夕食が出されてもそれを口にしないハルを見て、フォーラは笑った。
「あの人、また意地悪して」
 クスクスと笑いながら、彼女は寝転んだままのハルの肩を叩いた。
「ごめんなさいね。彼、育ちが悪いのか、粗暴なものだから。照れ屋だし、素直じゃないのよ。悪気はないんでしょうけど、いつもああなのよね。あなたも困ってしまったでしょ」
「いや」
 天井を突き抜けるかのような垢抜けた声に、ハルは、思わず返答をした。ナリアとはやはり違う。聖女のようなナリアに比べ、フォーラという女性はなんと人間臭いのだろう。
「困ってはいないのです。ただ、自分自身に納得がいかなくて」
「あら」
 フォーラは、そう言ってまた笑った。
 彼女の声は太陽のような眩しさをもって、暗く閉ざされて自信を失ったハルの心を照らし出した。
「どんなことなの? 聞いてもいい?」