忘れられた大樹 後編
大樹の袂に座っていたナリアが静かに立ち上がった。
「そのため、この大樹は役割を果たしました。人々からは忘れ去られ、ひっそりとこの森で生き続ける事でしょう。カレリ、サム。私たち星のシリン以外で、ハルを知るのはもはやあなた達だけ。どうか、ハルを忘れないで。そして、もう二度と、このような犠牲を払わせないでください。死に至ることよりも、忘れられてしまうことのほうが、ずっと辛いのだということも」
ナリアの言葉に、二人の子供はしっかりと頷いた。
その日、星のシリンと二人の子供たちを除く、世界中のすべての人間が、かつてこの森にいた一人の「森の人」を忘れた。
カレリとサムは、森の村へと帰り、ハルのしてきたことを、既にハルを忘れてしまった村人たちに、神話として伝え、伝説にすることでその存在を守り続けた。
その後数百年のあいだ、カレリとサムは、シリンとして、そして唯一の森の伝承の語り部としてこの村に留まり続けた。そして、今に至る。
作品名:忘れられた大樹 後編 作家名:瑠璃 深月