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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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すると、もう既に気を失っているハルを抱いたまま、ナリアが、まるで呪文を唱えるように、次の言葉をゆっくりと発した。
「もう一つの地球の伝説よりいでし命の木。その枝は天界を仰ぎ、その根は冥界へ通ず。大樹ユグドラシルに込められし人の想いよ。今、わが腕を介してこの大地に流れ込み、かの命と永劫なる森を繋ぐよう」
 すると、ナリアの腕の中でハルは静かに目を開けた。
 そして、何事もなかったかのように立ち上がると、ナリアに礼をした。
「これで、風の刻印は解放されました。子供たちをよろしくお願いします」
「わかりました」
 ナリアが答えると、ハルは、どんぐりを握ったまま絶句している子供たちに笑顔を向けた。
「私は今から遠い旅に出なければならない。ここに、シリンとしての私と、人間としての私を残していこう。だから、サム、カレリ、二人とも、どうか悲しまないで」
 そう言って、ハルは、右手をカレリのほうに、左手をサムのほうに向けた。
 そして、静かに目を閉じると、そのまま歩いて大樹の中に入ってしまい、その母木とハルの体は同化して、消えてしまった。
 その瞬間、カレリとサムは、全てを悟った。
 ハルは、木へと帰っていったのだと。
 そして、ハルの背負ったものや、すべての記憶をいっさいがっさい木の中に詰め込んで、ハルの意識でこの森を統べて行くのだと。
 だから、シリンとしての記憶や能力はハルの右手からカレリの持つどんぐりを通じてカレリの体に、人間としての記憶や能力はハルの左手からサムの持つどんぐりを通してサムの元に、それぞれ渡ったのだ。
 だから、二人の子供はもう泣くのをやめた。
 そして、意を決して、周りを取り囲むシリンたちを見た。
「私は、今、ハルと同じ時を生きるシリンになったのね」
 カレリが言うと、フォーラが頷いた。
「そしてぼくは、もう一つのハルとして、カレリと同じシリンとして、ハルの記憶を守り続けていく。ハルは、ハル自身のシリンとしての能力を同じようにぼくたちに分けて、そして、森そのものになってぼくたちをいつまでも見守っていてくれる」
 サムの言葉に、セベルが頷いた。
 すると、地面に刺さっていたトネリコの枝から、二枚、若葉が生えて来た。
 そして、その二枚の葉をアースが取ると、トネリコの枝は、役割を果たしたとばかりに枯れ果てて倒れ、地面に転がった。
「ユグドラシルの葉だ。これが枯れることはないだろう。いい守り札になる」
 そう言って、アースは二枚の葉をそれぞれ、カレリとサムに渡した。
「ハルは、この森そのものになりました」